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議員年金復活を目論む自民党

 

 

 

年額400万円の上乗せ年金を取り戻したい

選挙戦も折り返しを過ぎ、ここにきて不穏な話が出回っている。「議員年金の復活」が参院選後に具体化するというのだ。

 

議員年金といえば議員の特権として批判の対象となり廃止された制度である。国会議員は10年、地方議員は12年の在職期間があれば、国民年金に上乗せされて年金が支払われるという制度だった。

 

かつて不要と判断した制度を復活させるには大義が不可欠だが、議員年金復活を求める声の主である与党自民党の現職議員たちが掲げる理由はあまりにもお粗末だ。「議員のなり手がいなくなる」というのである。あまりにも苦しい理由に呆れるしかない。

 

議員年金はその制度の優遇内容から大きな批判を浴びて、国会議員年金は2006年に、地方議員年金は2011年にそれぞれ廃止された。国会議員は10年間毎月の保険料を支払えば年額412万円が受け取れた。在職期間に応じて受給額も増える仕組みなので、ベテラン議員の受給額はこれよりも多い。地方議員も同様に平均約95万円が給付された。

 

ここ数年、議員年金復活の話は常にあったが、自民党はいよいよ制度の復活に本腰を入れようというのである。


議員のなり手不足と社会保障制度の不備の議論のすり替え

「2000万円不足」の言葉が踊る年金問題は、今回の参議院選挙の争点の一つでもある。国民年金だけの加入では老後が不安だったり、そもそも若い世代は納付した国民年金保険料の回収も期待できないとさえ言われる始末。

 

議員のなり手不足の問題と社会保障制度への不安を結びつけるのは議論のすり替えにほかならない。国民年金制度だけで不安なのは、自営業者などの国民年金加入者も同じこと。国民年金基金に加入したり、個人型確定拠出年金(iDeco)を活用したりする方法もあるのだから議員だけわずか10年(地方議員は12年)の掛け金で多額の年金を受け取れるというのは、やはり公平性に欠ける。

 

年金の議論をするのであれば、議員特権ではなく、国民年金加入者全体の年金制度を議論することが先決だ。そもそも国全体の年金制度を再設計することこそ今求められている。

自民党もコソコソと随分と身勝手なことを言えたものである。

 

議員しかできない人材が選ばれている現実

そもそも、議員しかできない人材しか議員になれないような仕組み自体に問題がある。議員秘書が地方議会へ進んだり、国会議員の後継者として国政に出たりするのは珍しい光景ではない。

 

若くして地方議会に送り込めば、政治以外の業界の経験も積めないので、生涯議員を務めざるを得ないことになるし、議員も年金があればわざわざ別の業界にチャレンジする必要もない。

 

実業の経験もなく、政治村の論理だけで生きているような人々ばかりだからこそ、村の者たちを優遇する発想が出てくるのかもしれない。

 

外部から優秀な人材をスカウトしてくるよりも、党内のルールに染まった若者が議員になった方が都合がいいのだろう。党に尽くす人材になってもらう代わりに、セーフティネットを用意しておくから末長く汗をかけ。そうした発想しかできないことがなんとも口惜しい。

 

今よりももっと多くの国民が議員にチャレンジできる仕組みが整えばなり手の問題は解消する。企業に在籍しながら議員ができれば良い。議員を辞めても会社に戻れたり、議員を辞めても自分で事業を起こせるような感覚を持つ人材こそこれからの議場には求められている。

 

自民党の幹部が「元議員にはホームレスや生活保護の受給者がいるらしい」と発言したらしいが、議員に選ばれるような人材が、一度バッジを外せば実社会で生きていけないような人材では困る。

 

ただただ政党を生きながらえさせるためだけの議員はいらないのである。

 

復活すれば1兆円以上の税金を投入することに

総務省がまとめた資料によると地方議会議員年金制度の給付に要する経費の公費負担額は、毎年数百億規模で発生し、公費負担の総額は1兆円を超えるという試算が出されている。これは廃止が決まってからの負担額であるので、復活すれば当然公費負担は増えるはずだ。平均寿命も延びているので、高額の議員年金受給者が増えれば増えるほど、年金制度の維持にも不安が残る。

 

そんな事情があることは当事者の自民党をはじめとする議員のお方々は十分承知のはずである。それでも必要な制度だというのなら、堂々と参議院選挙の争点である年金問題の一つとして国民に示すのが筋だ。

 

成果の疑わしいアベノミクスの成果を吹聴して回るその裏で、隠れてコソコソと議員年金の特権の復活を画策されては困る。