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検定料25,000円。公平性度外視の英語民間試験を強行する文部科学省

 

 

 

大学入試改革がやってくる

 

2020年度入試から始まる「大学入学共通テスト」で導入されることとなった「英語民間試験」を不安視する声が数多く上がっている。その一つが「公平性」の問題だ。特に地域格差や経済格差による不公平さがすでにわかっており、このままでは、英語民間試験を実施することには懸念があるというものである。

 

今回の英語民間試験導入の背景にあるのは、文科省による「大学入試改革」だ。文科省は「グローバル化の進展や人工知能技術をはじめとする技術革新などに伴い、社会構造も急速に、かつ大きく変革しており、予見の困難な時代の中で新たな価値を創造していく力を育てることが必要」とし、「このためには、『学力の3要素』を育成・評価することが重要であり、「高等学校教育」と、「大学教育」、そして両者を接続する「大学入学者選抜」を一体的に改革し、それぞれの在り方を転換していく必要」があるとその理由を説明している。

 

社会の変化に応じて、教育の在り方を検討・改革していくのは当然であるが、その中に改悪につながる問題点があるのを知りながら、公平性を無視して進めてもよいという姿勢には納得がいかないという国民も多い。

 

では、英語民間試験の導入に関して実際にどのような問題があるのかを見ていきたい。

 

 

宿泊を強いられるケースも。深刻な地域格差

 

大学入試改革の目玉であるはずの英語民間試験の活用。文科省が認定した7つの民間事業者の試験を、受験生は4月から12月にかけて2回受験し、そのスコアが大学入試センターを通じて大学に提供されることになる。

 

ところが、これらの試験を受けるといっても、試験会場が実施団体によって偏りが出ることが予想されるほか、団体ごとで受験料にもばらつきがある。

 

従来の大学入試センター試験では、ご存知の通り、1月の試験会場は全国各地に網羅的に設置されてきたが、英語民間試験ではそうはいかない。現在公表されている各種情報によると、試験ごとに2020年試験実施会場が「10地域」と公表している団体もあれば、「47都道府県」で実施するとしている団体もある。また、実施回数について、ある試験団体では、毎月3回程度の実施が公表されており、東京都23区内ではそのほぼ全ての日程で実施が予定されているのに対し、別の道府県および東京都23区外では回数が「月1〜2回程度」や「期間中1〜4回程度」などと地域によってばらつきがある。

 

これでは、特に23区内に住んでいる受験生とそれ以外との地域格差が生じていることは明らかだろう。また実施場所についても、仮に「10地域」での実施であれば、わざわざ実施会場まで移動を強いられることになる。

 

首都圏の交通網ほどの環境が整っていない地方都市において、例え隣接する地域への移動も決して便利とは言えない。受験生によっては、宿泊を伴うケースもあるだろう。離島や僻地に住んでいる場合などはなおさらだ。報道によれば、離島に住む受験生の場合、1回の試験に2泊3日、5万円かかることも想定されるという。

 

 

低所得層への配慮も欠けている

 

今回対象となる民間試験のほとんどが、通常実施している既存検定との違いはないとしている点にも注目しなければならない。

 

既存検定と変わらないということは、受験経験の多い受験生には有利に働くそう外なる。特に富裕層の家庭では早くから検定試験を繰り返し受験することで、対策が可能になるが、低所得層であれば、そう簡単に何度も受験するわけにはいかない。地方に住む人たちも同様だ。


検定料は5,000円代から25,000円に達するものまで幅広い。1回5,000円、我が子の大学進学のための費用とはいえ、無尽蔵に支出できるわけでもない。文科省が実施団体に、経済的困難者向けの検定料を要請しているとはいっても減額幅にも限りがある。

 

従来の大学入試センター試験であれば、年に1度、受験生は公平に本番試験を経験する以外なく、一定の公平性は保たれていたと言えるだろう

そもそも、受験生によって異なる民間英語試験の結果をもとに、各大学が合否判定できるのかという問題もある。文科省では、民間英語試験のCEFR(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment)との対照表をもとに、評価が可能との考えを示しているが、対照表を一目見れば、異なる民間試験の結果を比較するのが容易なことではないのは想像に難くない。

 

志望校を定めて受験勉強する受験生はもちろん、彼らを指導する高校や予備校の教育現場もこれでは混乱せざるを得ない。英語民間試験の対策を講じようにも、各検定試験の実施内容には違いが多すぎる。受験生にとって最も効率がよく最大の結果が手に入る検定試験を勧めたいとの思いも理解できるだろう。

 

 

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受験生の努力を公平に測る仕組みが必要だ

 

10月4日に文科省が発表した内容によると、英語民間試験の結果を合否判定の材料や出願資格などに利用すると決めた大学が、9月末時点で全体の5割の561校になったという。四年制大学では64%が利用を決め、国立大学では94%にのぼったというが、私立大学は57%という数字だった。文科省の萩生田大臣は、「予定通り2020年度から実施する」との述べる一方、「もう少し多くの大学が参加してくれる仕組みだったらよかった」との感想も口にしている。

 

大学入試改革で掲げる、「読む・聞く・書く・話す」の4技能を高等学校までの教育現場で育み、その力を測ることが目的であるので、安易な検定対策に走ることが推奨されるわけではないが、大学進学がその先の社会における一定の評価にもつながる側面もある現実が確かに存在する以上、公平な実施環境の策定のために文科省には、もうひと汗もふた汗もかいてもらわなければならないだろう。