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国会の審議にあらためて目を向けよう ―枝野代表の最長演説をきっかけに―

 

 

 

枝野代表による最長の演説

 

 7月22日、国会は閉会した。その最終盤の7月20日、立憲民主党をはじめとする野党が内閣不信任決議案を提出し、立憲民主党の枝野幸男代表が趣旨説明を行った。

 

 この趣旨説明は2時間43分に及び、これは演説時間の記録が残っている1972年以降では最長の演説だったと報じられている。この種の長時間演説は、法案に反対の立場の議員が抵抗のために行う戦術として「フィリバスター」と呼ばれている。アメリカの連邦議会上院では、1957年の公民権法の審議時にストロム・サーモンド議員が24時間を越える演説を行っており、これがアメリカにおけるフィリバスターの最長記録となっている。

 

 24時間と比較すると枝野代表の2時間42分は決して長いとは言えないが、それでもフィリバスターとしては十分にインパクトのあるものであった。

 

 その内容も濃密で、この演説をまとめた本が扶桑社から発売される事態にまでなっている。

 

www.asahi.com

 

 

七つの不信任理由

 

 枝野代表は安倍政権不信任の理由として、以下の七つをあげている。

 

  1  高度プロフェッショナル制度の強行

  2  カジノ法案の強行

  3  アベノミクスの限界の露呈

  4 モリカケ問題

  5 不誠実答弁、民主主義のはき違い

  6 行き詰る外交、安全保障政策

  7 官僚システムの崩壊

 

 この中で、3・4・5には、それぞれ30分以上をかけている。特に4には最長の時間をかけており、この点について今国会で真相が明らかとはされなかったことを厳しく追及している。さらに、5については今国会に限ったことではないが、繰り返される不誠実な答弁や国会対応をこれまた厳しく追及している。

 

 この5の部分で、興味深い指摘を枝野代表は行っている。野党は審議拒否を行っているという批判に対して、経済産業委員会を例にあげて反論を行うかたちで、審議拒否をしているのは与党だと反論したのだ。

 

 どういうことかと言うと、経済産業委員会では、政府提案の審議案件が全て片付いた状態になっており、そういう状況でありながら、野党が提出した法案を審議には応じていないのだ。こういう事実を大半の国民は知らずに、野党は審議拒否ばかりしているというイメージだけで物を語ってしまっている。

 

 例えば、経済産業委員会の実情を知っていれば、単純に野党は審議拒否ばかりしているという意見にはならない。

 

 枝野代表が不信任の理由の1と2であげた高度プロフェッショナル制度に関わる法案審議やカジノ法案に関わる審議も、その実際の審議の映像を見ると、不信任の理由の5や7が提起される理由も見えてくる。

 

 その他の不信任の理由についても丁寧に事実を積み重ねながら立論がなされている。単に議事を妨害するために長時間の演説を行ったというよりは、提案理由を言い連ねたら、結果として2時間を優に超えてしまったというのが正鵠を射ているだろう。

 

 

国会の審議に目を向ける

 

 枝野代表の演説には、国会審議のあり方に国民の目や耳が向かっていないことへの危機感があらわれているように思う。

 

 例えば、野党は大半の政府提案に賛成している。しかし、少なくない国民が野党は反対ばかりしていると思っている。これは、少しでも国会審議に目や耳を向けていれば、そうはならないはずだ。その他にも、枝野代表が不信任の理由としてあげた各点につき、それぞれで事例を紹介しているが、現在の安倍政権は国会で様々な誤魔化しを続けている。それを野党は指摘しているに過ぎないのだが、その指摘の場面だけ報道されると、「野党は批判ばかりしている」という印象を持たれてしまうのだ。

 

 枝野代表の演説が本になることを受けて、30日の定例会見で立憲民主党の福山幹事長が国民に知ってもらう機会になると語っているが、まさに国会での与野党の活動をあらためて国民に知ってもらうことは重要な課題であると言えるだろう。

 

 ここまで、枝野代表の不信任決議案の提案趣旨説明を取り上げたことから、野党の活動が正当に評価されていないという趣旨の書きぶりになってしまったが、その活動が正当に評価されていないのは与党も同様である。良くも悪くも、与党が国会で進めていることは一部しか国民に伝わっていない。

 

 報道では一部分しか切り取られないのは仕方がないとしても、現在は衆参両院のWebサイトで国会審議の様子を確認することが出来るので、それを少しでも確認してみるという作業が一人一人の国民に求められているのではないだろうか。

 

 もちろん、そうかと言って全てを確認するのは非現実的だ。そこでまず目を向けたいのが今回の枝野代表の演説のように与野党が対決するような場面である。そういう場面も、報道では一部分を切り取ってしまっているため、実際に何が起こっていたのか正確なところが分からないかたちになってしまっていることから、まずが自らの目と耳で確認をしてみるのが一番だ。少なくとも、今回の枝野代表の演説は必見である。

 

 そうすると、与党と野党のそれぞれに対する評価も、これまでとは異なったものになるかもしれない。