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ようやく実現するデジタル教科書、教育のイノベーションが始まる

 

 

 

 やっと、と言っていいだろう。日本の教科書のデジタル化が始まる。政府は2月下旬、学校教育法など関連法案の改正を本国会に提出することを閣議決定した。

 

 これまで学校教育法と著作権法では、教科書は「図書」であると定義されており、「紙」でないと教科書として認定されなかったが、今回の法改正によって、子どもたちがタブレット端末などで読むことのできる、いわゆる「デジタル教科書」が2019年4月から使えることになる。

 

 法案改正の趣旨については、次のように書かれている。「教育の情報化に対応し、平成32年度から実施される新学習指導要領を踏まえた「主体的・ 対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、障害等により教科書を使用して学習すること が困難な児童生徒の学習上の支援のため、必要に応じて「デジタル教科書」を通常の紙の教 科書に代えて使用することができるよう、所要の措置を講ずる」(文部科学省資料)。

 

 

教育現場で起きるイノベーション

 

 デジタル教科書の実現は、今後、学校教育のあり方を大きく変えていく可能性がある。1つにはデジタルの恩恵を最大限に活かせる点にある。

 

 わかりやすいのは、音声や映像など多様なコンテンツを使える点にある。ものごころついた時から、インターネットに繋がっているのが当たり前、スマホをいじるのも当たり前で、youtubeなどでお気に入りのアーティストの歌を聞いて育っている子どもたちにとって、アナログな紙の教科書よりも、デジタル教科書の方が深い学びにつながっていくだろう。

 

 これらの意味することは、つまり教育力の底上げということになる。従来の紙の教科書に比べて情報量を格段に増やせるため、まず教材の分量を増やせること、動画やワークシートを盛り込める。反復学習もできるし、個別の学習履歴を管理できるようになる。

 

 個人の学習状況をデータで把握できれば、そのビッグデータを解析することで、教育のオーダーメイドも可能となり、学力到達度も随時把握できるようになるだろう。今までは教員の経験に依存していた、学習のつまづきやすいポイントも教科書のデジタル化に伴い、データで可視化される未来も早晩やってくるはずだ。

 

 

ビッグデータの解析で学習効果を高める

 

 すでに東北大学は東京書籍、ACCESS、日本マイクロソフトと組んで、「小・中学校におけるデジタル教科書 学習履歴データ収集と分析」をテーマとした実証研究を東京都荒川区立第三峡田小学校と荒川区立第三中学校で実施しているところだ。実証実験では、子どもが「いつページをめくったか」「どの部分を注視したか」「何を書き込んだか」といった行動を取った学習履歴データを取得し、こうしたデータを基にした的確で継続的な指導を目指しているという。

 

 このようにデジタル教科書の導入は、学校教育のあり方も大きく変えていく。筆者は10年ほど前、上海の複数の公立小学校を視察したことがある。日本ではちょうど、電子黒板が国の政策で導入されていたころだ(結果的に電子黒板はほとんど活用されずに、学校に眠ってしまうことになった)。

 

 

上海はネットワークとデジタルを使いこなしていた

 

 驚くべきことに、10年前の時点ですでに上海の公立小学校はネットワークで上海市教育委員会と繋がり、最新の教材が学校に配信されていた。教科書こそデジタルではなかったものの、英語も算数も、すべてのオンラインで教材が学校に配信されていたのである。これによって、教員は板書のために生徒に背を向ける必要がなくなっていた。常に生徒を向いて授業ができるのである。当時、上海の公立小学校で教鞭を取っていた教員は、「授業に無駄がなくなったことで、1コマの授業で教えている内容・ボリュームを変えることなく、授業時間が短くでき、生徒の集中力が高まった」と言っていたのが印象的だ。

 

 そうしてもう一つ、指摘しておきたいのは特別支援学校に通う児童・生徒こそ、デジタル教科書の恩恵が大きい。ほとんどの人は、いや、国会議員でさえも特別支援学校で使う教科書がどうなっているか、知らないだろう。これまでの学校教育法では紙の教科書しか認められていなかったため、例えば、視力が非常に低い児童・生徒の場合、文字を拡大するために特別な、それも結構高額な装置を購入しなければならなかった。

 

 今やスマホで見るウェブや画像、テキスト情報は指先ひとつで、パッと拡大して見ることができて、彼らも日常生活ではそのように過ごすことができているのに、である。こと、学校現場だけは法律の壁もあって、紙の教科書しか許されていなかったため、わざわざ高額な装置を購入しなければならなった。デジタル教科書はこうした、従来潜在的に抱えていた教育の受けづらさも解消していくことになるだろう。

 

 

1年後の統一地方選挙は一つのリトマス紙

 

 デジタル教科書の併用が認められたものの、導入は教育委員会毎の判断となる。教育長の任命権者は県知事、市長である。地方自治体の首長が教育をどのように捉えるかによって、対応に差が出てくるだろう。特に紙の教科書と異なり、情報端末の購入費用は現状では家庭の負担ということになりそうだ。自治体が予算を計上して端末を用意するのか、あるいは別の、公民連携の仕組みを使って整備するのか、その辺は首長の手腕一つ、ということになる。

 

 統一地方選挙が約一年後に控えている今、各政党がデジタル教科書と、それに伴う教育のイノベーションにどこまで理解があるか、導入に積極的になのか、政党を判断する上での一つのリトマス紙になるのではないないだろうか。