霞が関から見た永田町

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安倍首相の訪米、成果はあったのか?

 

 

 

挽回の契機のはずが

 

 現地時間4月17日と18日に、安倍首相が訪米し、トランプ大統領と数度の会談を行った。


加計学園問題をめぐる文書改竄や財務省の福田事務次官のセクハラ発言疑惑がある中での訪米であったことから、安倍総理としては得意とされる外交で成果を残し、悪い流れを断ち切りたいという思惑もあったはずだ。安倍総理が訪米するとなれば、マスコミも訪米中の動静を報道し、外交の成果が大々的に宣伝されるものと思われていた。


しかし、実際には、福田事務次官をめぐる連日の出来事を前に、安倍総理による訪米の話は霞んでしまった。外交で得点をあげて、それをもって政権の再浮上を図るという思惑があったとすると、それは脆くも崩れ去ってしまったと言える。内政での不手際を外交で挽回するという、安倍総理の得意のやり方が今回は通じなかったのである。

 

 

実は成果がなかったのではないか

 

ところで、今回の安倍総理の訪米では、どのようなことが成し遂げられたのだろうか。既に1週間を経過し、目立った報道も見られなくなったが、日本側の懸案事項について確認してみよう。


まず、環太平洋連携協定(TPP)について。報道されるところでは、TPPへのアメリカの復帰については、アメリカに有利な条件でない限り復帰しないとトランプ大統領から軽くあしらわれてしまったとされている。そして、アメリカとしては二国間協定を結ぶことが最善であるとの従来の主張が繰り返されただけに終わったようである。

 

先ごろトランプ政権が発動した鉄鋼とアルミニウムの輸入制限について。これはEUやカナダ、韓国などの同盟国は適用対象から除外されたにもかかわらず、日本は適用されてしまっていた。安倍総理とトランプ大統領の親密さがこれまでも強調されてきたが、ビジネスライクなトランプ大統領はそんなことはお構いなしに、日本への適用を決めてしまったのである。この点も懸案事項であったはずだが、報道される限り、日本にとって好ましい進展はなかったようである。


上記の貿易に関する懸案事項に進展が見られない中で、茂木経済再生相とライトハイザー通商代表の間で、貿易や投資などを協議する新たな枠組みの創設を合意させられてしまった。この新たな枠組みでは、アメリカの貿易赤字の削減に向けて協議していくというのであるから、日本としてはあまり得るところのない合意をさせられてしまったように見える。日本の農産物市場の開放や自動車貿易が優先的に話し合われることになるのではないかとも伝えられており、日本にとって今後苦しい交渉を強いられる可能性すらある。

 

www.jiji.com

 

 

北朝鮮の核問題については、早期解決のために最大限の努力を払い、今後も圧力をかけ続けることで一致したとのこと。トランプ大統領は、拉致問題についても日本に協力する姿勢を示したようだが、その裏側では、3月末から4月初めにかけてポンペオCIA長官を極秘訪朝させている。この訪朝には韓国も関与しているようで、一人日本だけが蚊帳の外に置かれて米朝交渉が進められているというのが実態である。

 

www.sankei.com

 

 

 日本にとっては最大の懸案事項と言っても良い拉致問題について、トランプ大統領から踏み込んだ発言を引き出したかったところだが、実際には従来通りの発言しか得られず、さらに裏では拉致問題を抜きにして米朝交渉が進められている懸念すらある。国会議員の中でも早い時期から北朝鮮問題には取り組んできた安倍総理だが、総理大臣になってから、この問題で目ぼしい成果を得られていないのも気になるところである。

 

 

むしろ大々的に報道されないことで救われたのではないか

 

外交交渉はその結果が直ぐに表に公開されるわけではないため、今回の安倍総理の訪米でも実際にどのようなことが議論され、何が決まったのか・決まらなかったのかは現段階でその全容は明らかではない。ただ、日本側にとって宣伝したい成果があれば、少しはそれを表に出すはずで、現段階でそのような成果に関する報道がなされる状況にはないということは、実態として目ぼしい成果がなかったということだ。とすると、外交で得点を稼いできたとされる安倍総理がその外交でも成果を残すことが出来ていないということになる。


 当初は外交で失地回復のつもりが、むしろ外交の成果を強調しようとすると、その不手際が目に見えてしまうという状況。そんな状況に安倍総理は置かれてしまったのではないだろうか。とすると、今回の訪米が日本国内のスキャンダルによって大々的に報道されなかったことは安倍総理にとって幸いだった可能性すらある。

 

 今回の訪米でも安倍総理とトランプ大統領はゴルフをともにし、その親密さが強調された。しかし、親密な相手であっても交渉で譲ってくれるわけではないことは、一連のアメリカの対日政策で明らかになったことである。


 国のトップ同士の個人的な関係も重要ではあるが、外交にあっては、その交渉の成果を冷静に評価する必要がある。安倍総理が得意とするとされた外交も、今回の訪米で垣間見えたように、必ずしも上首尾に終わったわけではなく、その成果について、きちんと評価を行う必要がある。イメージだけで、安倍総理は外交で得点をあげていると思っていると、日本として大きな損失を負いかねない。政権のスキャンダルに惑わされず、政権としてどのような成果を残しているのか・残していないのか、きちんと見定めていきたいものだ。