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無条件の対話へ方向転換 安倍総理は国会で北朝鮮との交渉について何を語ってきたのか(1/2)

 

 

 

無条件での交渉を打ち出した安倍総理

 

 無条件で北朝鮮の金委員長と会うと打ち上げた安倍総理。
 外交交渉は、その都度に状況が変わることから、その時々で対応が変わるということも、もちろん想定すべきではある。ただ、どうしても、唐突感が残るのも確かだ。果たして、これまで国会で安倍総理は何を語ってきたのだろうか。
 ずっと前に遡ると、時間の経過で状況が変わったと反論されるだろう。あるいは、「そんなことは忘れた」と逃げられてしまうかもしれない。そこで、2015年からと、比較的直近の安倍総理の国会での発言を拾ってみることにする。

 

 なお、安倍総理の国会での発言については、国会会議録検索システムを用いて検索した。

 

kokkai.ndl.go.jp

 

 

2015年から2016年の国会では

 

 2015年8月4日、参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会にて、自民党の山本一太議員の質問に答えて。
「現在、ストックホルム合意によりまして北朝鮮と対話を行っています。確かに、まだ結果は出ていないわけでありますが、我々はつかんだこの対話の糸口をしっかりとつかみつつ、行動対行動、対話と圧力の原則に基づいてこの問題の解決に当たっていきたい。核、ミサイル、国際社会とともに、そして拉致問題は国際社会の理解を得つつ、国連の人権委員会等の理解と圧力も得つつ、我が国の独自の力でもって完全解決を目指していきたい。そのために、岸田大臣に先方の外務大臣と直接交渉をするように指示をしているところでございます。」

 

 この頃は、対話のルートがあり、そこを介して問題解決の道を模索していたことが伺える。しかし、その進展は見込めなくなり、さらにはミサイル発射など不穏の事態が招来すると、圧力を強調するようになる。

 

 2016年1月27日、参議院本会議にて、おおさか維新の会(当時)の馬場伸幸議員の質問に答えて。
 「政府としては、引き続き、関係国と緊密に連携しつつ、対話と圧力、行動対行動の原則のもと、拉致問題の解決に向けて全力を尽くしてまいります。」

 

 2016年3月18日、参議院予算委員会にて、民主党(当時)の有田芳生議員の質問に答えて。
 「この拉致問題についてしっかり今後とも取り組んでいくことによって、対話と圧力、行動対行動の原則の中において、何とか北朝鮮側にこの問題を解決をする、そういう決断を引き出していきたいと、こう思っている次第でございます。」

 

 2016年9月28日、衆議院本会議にて、公明党の井上義久議員の質問に答えて
 「拉致問題は安倍政権の最重要課題です。一日も早い全ての拉致被害者の帰国に向け、北朝鮮が真剣に対話に応じるよう、厳しい圧力をかけながら、対話と圧力、行動対行動の原則のもと、全力を尽くしてまいります。」

 

 このあたりまで、基本的には厳しい圧力をかけつつ、「対話と圧力」というのが安倍総理の立場だった。ただし、重心はこの頃から圧力にあるわけで、その重心のかけ方が変わり始めるのが2017年に入ってからとなる。

 

 

2017年の国会にて、圧力の強化へ

 

 2017年4月13日、衆議院外交防衛委員会にて、日本維新の会の浅田均議員の質問に答えて。
 「もちろんこれは、平和的にこれを解決をしていくということは当然のことであろうと思います。ただ、残念ながら北朝鮮自体は、そういうことをやめなさいと国際社会から言い続けてきても、残念ながらミサイル開発も核開発もやめずに、彼らの能力を引き上げてきたという現実があるわけでございます。
 その中で、日本としては、対話と圧力の姿勢、行動対行動の姿勢で、北朝鮮に対して、核開発の放棄、ミサイルの、言わば弾道ミサイルの発射等挑発的な行動を自制するように求めてきたわけでありますし、拉致問題の解決についても強く求めてきたところであります。対話と圧力の姿勢においては米国と共有できると考えているわけでございますが、その中で、国際社会においても、北朝鮮に累次、国連決議をもって制裁を科してきたところであります。
 しっかりとこの制裁を実行あらしめるものにしつつ、北朝鮮が現在取っている政策、この挑発的な行動を取っていく、危険な道に進んでいくこの政策を大きく転換するように促していかなければならないと。そのためにも、国際社会がしっかりと団結をし、そして義務と責任を果たしていくことが求められていると思います。」

 

 2017年4月17日、衆議院決算委員会にて、自民党の瀬戸隆一議員に答えて。
 「北朝鮮は、十五日の軍事パレードにおいて新型ミサイルと推定されるものを含め七種類の弾道ミサイルを公開し、十六日には弾道ミサイルの発射を試みるなど軍事力を誇示していますが、外交努力を通じて平和を守ることが重要であることは言うまでもありません。
 同時に、対話のための対話では意味がないわけでありまして、北朝鮮が真剣に対話に応じるよう、圧力をかけていくことが必要と考えています。」

 

 2017年11月21日、参議院本会議にて、民進党(当時)の大塚耕平議員の質問に答えて。
 「北朝鮮に政策を変えさせるため、あらゆる手段を使って北朝鮮に対する圧力を最大限にし、北朝鮮の方から対話を求めてくる状況をつくっていくことが必要です。」

 

 2017年11月22日、衆議院本会議にて、公明党の山口那津男議員の質問に答えて。
 「北朝鮮に政策を変えさせるため、あらゆる手段を使って北朝鮮に対する圧力を最大限にし、北朝鮮の方々から対話を求めてくる状況をつくっていくことが必要です。」

 

 2017年11月27日、衆議院予算委員会にて、自民党の新藤義孝議員の質問に答えて。
 「北朝鮮に政策を変えさせるために、あらゆる手段を使って、圧力を最大限にして、北朝鮮の方から対話を求めてくるという状況をつくらなければならないと考えています。
北朝鮮は、一九九四年の枠組み合意、あるいは二〇〇五年の六者会合共同声明を時間稼ぎの口実に使い、核・ミサイル開発を進めてきたとの反省を踏まえれば、北朝鮮とは対話のための対話では意味がないわけであります。北朝鮮と意味のある対話を行うためには、北朝鮮が、完全、検証可能かつ不可逆的な方法で核・ミサイル計画を放棄するとのコミットメントと、それに向けた具体的な行動を示すことが必要と考えています。」

 

 2017年11月28日、衆議院予算委員会にて、希望の党(当時)の長島昭久議員の質問に答えて。
 「現在、私たちは、北朝鮮の政策を変えさせるために、あらゆる手段、圧力を最大限まで高め、そして北朝鮮が対話を求めてくる状況をつくらなければならないと考えております。」

 

 2017年11月29日、参議院予算委員会にて、民進党(当時)の増子輝彦議員の質問に答えて。
 「この北朝鮮の問題について、私も国会議員に当選して以来ずっと関わってまいりました。官房副長官としてもそうですし、また官房長官としても、前政権の総理大臣としても、あるいは党の幹事長等々でも関わってきたわけでありますし、実際に交渉にも関わってきたところでございます。その上において、私は、今の我々が通っている道によって北朝鮮の政策を変えさせていくことが重要であろうと、このように思います。」
 「つまり、話合いを時間稼ぎに使って、核、ミサイルの開発を進めてきたことから、しっかりと、核、ミサイルの完全かつ検証可能な形で不可逆的に廃棄をしていくことに北朝鮮をしっかりとコミットさせる形でいって話をすると、北朝鮮が話をするという状況に持っていく必要があると、そのためにはあらゆる手段において圧力を高めていくしかないと、このように考えております。その点においては日米は一致をしているということでございます。」

 

 与野党を問わず、北朝鮮問題に関する質問を行った議員に答えて、圧力は最大限と表明し、さらに、対話のための対話では意味がないとも明言したのが安倍総理である。そして、対話を行うためには、具体的な行動を北朝鮮は示せとまで迫っている。

 

 なお、この2017年11月29日には、北朝鮮が弾道ミサイルを発射している。それを受けての11月30日の参議院予算委員会にて、公明党の西田実仁議員の質問に答えて。
 「昨日、北朝鮮がICBM級と見られる弾道ミサイルを発射したことは、国際社会の平和解決への思いを踏みにじるものであり、北朝鮮が再びこのような暴挙を行ったことは断じて容認できません。
 直ちに北朝鮮に対し厳重に抗議するとともに、米国、韓国と共に安保理緊急会合の開催を要請しました。同時に、トランプ大統領とそして文在寅韓国大統領と緊急に電話会談を行いました。北朝鮮に対する一層の圧力強化、中国の更なる役割の慫慂、安保理等における緊密な連携について一致をしたところであります。
 今回のミサイル発射により、北朝鮮が一貫して核・ミサイル開発を追求していることが明白になりました。しかし、我が国はいかなる挑発行動に対しても屈することはありません。北朝鮮に政策を変えさせるため、毅然とした外交を通じ、国際社会で一致結束をして北朝鮮に対する圧力を最大限に高め、そして北朝鮮の方から対話を求めてくる状況をつくっていきます。この方針にはいささかの変更もないことを文在寅大統領にも、またトランプ大統領にも伝えたところであります。」

 

 ここではっきりと安倍総理は、「北朝鮮に対する圧力を最大限に高め、そして北朝鮮の方から対話を求めてくる状況をつくっていきます」と表明している。よもや無条件の対話など、この時には想定していなかったはずだ。