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北朝鮮への譲歩に続き、日米貿易交渉でも安倍外交は敗北したのか

 

 

 

玉木代表も追及した日米貿易交渉の行方

 

 先日、国民民主党の玉木代表による予算委員会での質問に関する玉木代表自身による解説動画を紹介した。

 

www.ksmgsksfngtc.com

 

 

 その玉木代表の質問の中に、日米貿易交渉に関するものがあった。あらためて玉木代表による質問を確認して欲しいところだが、この点、国会でも議論を深めてもらいたいテーマだ。日米交渉の成果は今後の日本の行く末にも大きな影響を及ぼすものであるからだ。

 

 安倍総理が強調するのは、今回の日米交渉の結果、両国にとって「ウィン-ウィン」の関係となったということである。
 確かに、日本が譲歩した項目があれば、アメリカが譲歩した項目もあるのかもしれない。総体的に見れば、両国にとって得るところがあったのだろう。しかし、玉木代表による質問の中の以下の一節が核心を突いているように思う。

 

 「安倍総理が追加関税を回避できたことが成果だと言っているが、条文上全く根拠がない。両国が結んだ文書では何ら担保されていないことが明白だ」

 

www.dpfp.or.jp

 

 

 日本側が成果であると強調している点がどうやら両国の結んだ文書上では明確ではない。安倍総理をはじめ、交渉にあたった外交担当者の中で、願望として日本側も得るところがあったと思いたいというのは理解できるが、実際には結ばれた文書上でそれは明らかではないということ。これでは、日本側の「ウィン」の部分が存在しない、あるいは過少である可能性があることになろう。

 

f:id:araaaaan:20191025175442p:plain

 

 

日本側は譲歩を強いられる構造

 

 そもそも、日米が対等に貿易交渉を行うという前提自体が間違っているという声は以前からある。安全保障上、アメリカに頼るところの大きい日本として、強く交渉を行うことが出来ないというのだ。

 

business.nikkei.com

 

 

 確かに、そういう側面はあるだろう。ただ、そうだとしても、交渉の結果について、日本国民を「騙す」ような振る舞いは決して許されない。
 特に玉木代表が国会審議で強調していた点は、安倍総理が成果であると強調する点につき、それが本当はそうではないのではないかという本源的な問いであった。
 問題となったのは、自動車と自動車部品に関する関税の撤廃についてだ。日本政府としては、自動車と自動車部品に関する関税を撤廃出来るとして、それを成果とした。しかし、結ばれた日米貿易協定の文章を確認すると、自動車と自動車部品に関する関税を撤廃は合意されていない。
 玉木代表が指摘した原文は以下のとおり。

 

 「Customs duties on automobile and auto parts will be subject to further negotiations with respect to the elimination of customs duties.」(原文119ページ)

TRADE AGREEMENT BETWEEN JAPAN AND THE UNITED STATES OF AMERICA

 

 

 この一文をめぐって、玉木代表と茂木外部大臣による激しい質疑が国会でも展開された。このやりとりを取り上げたブログもあり、その激しさは注目に値するものであったことになる。

 

agora-web.jp

 

 

 茂木大臣は後半の「with respect to the elimination of customs duties」に着目して、この部分に関税の撤廃が含意されているので、今後、関税の撤廃を前提に「更なる交渉(further negotiations)」がなされるとの立場をとった。対して、玉木代表は、「更なる交渉」は「約束される(will be subject to)」としても、関税の撤廃はその限りではないと主張した。

 

 上に紹介したブログの著者も指摘しているが、これは玉木代表の解釈の方が正しいだろう。つまり、日米間で、更なる交渉については約束されたものの、関税の撤廃は交渉に際して「考慮する(with respect)」という位置付けであって、撤廃自体は合意されていない。

 

 もちろん、交渉にあたって考慮する事項である以上、まったく無下に扱われることはないとは思うが、撤廃自体を約束したという文章になっていないため、撤廃に至るのかどうかは現段階では不透明だ。

 

 

本当の「ウィン」を国民に示せ

 

 自動車や自動車部品に関する関税の撤廃を約束したとし、それをもって追加の関税が回避されたと、その成果を強調する安倍総理。しかし、合意文書を読む限り、それは少々言い過ぎであって、成果を強調するのは国民を欺く行為であるとさえ言える。
 相当危うい日本側の「ウィン」を強調し、日米両国が「ウィン-ウィン」であったとするのは、いささか無理があろう。
 ひとまず、本当のところの日本側の「ウィン」とやらを、安倍総理には見せてもらいたいものである。それが出来ないなら、またもや安倍外交が敗北を重ねたと評価せざるを得なくなる。