霞が関から見た永田町

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やはり北方領土返還は遠のいた G20における日露首脳会談から見えたこと

 

 

 

トランプ大統領の外交により霞んだ日本外交の失敗

 

 G20は大きな問題もなく閉幕した。と、その余韻に浸る間もなく、トランプ大統領が金正恩朝鮮労働党委員長と電撃的に会談を行った。
 G20の最中にトランプ大統領が自身のTwitterで会談を呼びかけていた。それが本当にきっかけとなったのかは不明だが、G20を前振りに使うという強かな外交をトランプ大統領は見せつけた。
 最初はただの思い付きかもしれないが、その都度都度で的確に情報を発信し、かつ迅速に行動するトランプ大統領。その外交手腕は侮りがたい。

 

 さて、トランプ大統領と金委員長の会談で、週明けのニュースの関心もそちらに集まることになったが、G20の最中で見落としてはならない事柄があった。それは日本とロシアの間での外交に関することについてである。「外交の安倍」に偽りアリとしか思えない安倍総理の失策。その失策が間違いのないものとなったことが確認できる一幕があった。

 

 

日露首脳会談の「成果」

 

 G20の最中の6月29日に、安倍総理とプーチン大統領が会談を行った。
 会談後、二人が共同記者発表をしている。
 産経新聞が二人の発表について報じているので、是非、その内容を丁寧に確認して欲しい。

 

www.sankei.com

 

www.sankei.com

 

 

 日露首脳会談の成果については、読売新聞が「平和条約交渉に新たな進展なし」とするなど、何か進展があったというわけではないようである。

 

www.yomiuri.co.jp

 

 

 両首脳の発表は、成果を強調しているが、特に日本側は思うような成果を上げることが出来なかったと言えそうだ。特に、期待されている北方領土の返還については、まるで期待薄となってしまったことが透けて見えた。むしろ、「北方領土返還は遠のいた」とする先日こちらのエントリが正しいものであったことを裏打ちしているとすら言える。

 

www.ksmgsksfngtc.com

 

 

 詳細に安倍総理の発表を見ていこう。

 

 まず、ロシア北極海LNGプロジェクトへの日本企業の参画が正式に決定した旨を発表する。これにより北極地域の開発と日本のエネルギー安定供給が実現するとのこと。
 これは5月の段階で最終調整であることが報じられていたことであり、G20に合わせて正式決定ということにしたのだろう。

 

mainichi.jp

 

 

 これが目ぼしい成果と言えば成果である。

 

 次に、2023年までに、相互訪問者をそれぞれ少なくとも20万人、計40万人にする目標を両国で共有することを発表した。人的交流についての目標数を共有するということであるが、これに合わせて、「日露地域交流年」の来年からの開始などの交流事業の拡大にも言及している。さらに、ロシア企業関係者に対する新たに査証の緩和とロシアの大学生に対する査証手続きの簡素化を発表した。

 

 このあたりも既定路線と言えそうだが、今回の成果だろう。

 

 以上に続いて、北方領土問題と深く関係する事柄に言及されるところとなる。
 1956年共同宣言を基礎として、平和条約について引き続き交渉することでプーチン大統領と一致したというのである。
 これは安倍総理の失策である「あらゆる前提条件を抜きにして」という条件を飲んでしまった平和条約交渉の件である。前提条件とは、「日本とロシアの間には北方領土問題があり、北方四島の帰属の問題を解決した上で」という条件のことで、この条件を満たした上で平和条約を締結するという約束を日露両国間で行っていた。
 その前提条件をなきものとすることを安倍総理は飲んでしまったのである。

 

 今回、平和条約交渉を引き続き行うことは合意したとのことだが、この前提条件には当然のように安倍総理もプーチン大統領も言及していない。
 そう、本当に前提条件はなくなってしまったようだ。

 

 安倍総理は平和条約交渉の継続に続いて、北方四島における共同経済活動の実施に向けた進展を歓迎することでも一致したという。
 さらに、元島民の方々のための人道的措置についても協力を進めるということで、墓参を8月または9月に実施することで一致したともしている。

 

 それぞれ、日本にとっては苦渋の選択としか思えないことであるが、安倍総理はどう思っているのだろうか。これだけでは、実質的にロシアの実効支配を認め、それを確たるものとする方向に進めることを容認しているようだが、果たしてどうなのだろうか。

 

 

安倍政権の外交成果に「?」がつく

 

 そして、最後にかけて、以下のような発表を安倍総理はしている。重要なので、産経新聞上に載っている文章を引用したい。

 

 「昨年11月のシンガポールの首脳会談での合意以降、かつてない頻度で平和条約交渉が行われています。本日は私とプーチン大統領との間で、こうした交渉の経過や今後の展望を含め、率直に議論を行いました。戦後70年以上残された困難な問題について、立場の隔たりを克服するのは簡単ではありません。しかし乗り越えるべき課題の輪郭は明確になってきています。」

 

www.sankei.com

 

 

 そう、率直な議論はしたとのことだが、それ以上に踏み込んだことは何も言っていない。平和条約交渉を進めることは合意済であり、実際に進めているということなのだろうが、北方領土問題が課題であるとここで安倍総理が明言していないところがポイントだ。あくまでも、「乗り越えるべき課題」としている。
 日本としては、領土問題は譲ってはならない課題であるはずだ。隣にプーチン大統領がいる中での発表であったとして、きちんと両国間にある領土問題ということを言わなければならないのだ。
 そう言わない以上、まさに「日本とロシアの間には北方領土問題があり、北方四島の帰属の問題を解決した上で」という前提条件が両国間には存在しなくなり、そういう新たな前提のもとで交渉がなされていると見るべきだろう。
 そう、領土問題は棚上げにされて、平和条約交渉が進められようとしているのである。

 

 今回の参議院議員選挙で、自民党は安倍政権の外交成果を前面に出して戦うようだが、領土を事実上売り渡してしまったかもしれない安倍総理のもとで、本当にそれで良いのだろうか。