霞が関から見た永田町

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必要なのは旅行業界への支援であって、国民の旅行の促進ではない

 

緊急事態宣言解除後、最多を更新

 新型コロナウイルスの感染者数が緊急事態宣言解除後の最多を更新し続けている。

mainichi.jp

 

 以前よりも検査数を増やしているからとか、重症者が少ないからとか、最多を更新し続ける中でも問題ないとする楽観論に与するような主張もないわけではないが、既に事態はかなり深刻なところに至っているのではないだろうか。

 事態の推移を慎重に見守る必要はあるが、増加し始めた時には指数関数的に一気に増加してしまう可能性もあり、批判されようとも早めの対策を打つことが政府には求められている。

 しかしながら、政府はむしろ逆向きの動きをしようとしている。
 それが「Go to トラベル」キャンペーンである。

強行される「Go to トラベル」キャンペーン

 新型コロナウイルスの影響を受けて経済的打撃を受けた旅行業界を支援しようと、旅行者に助成を行うというのが「Go to トラベル」キャンペーンの目的である。

 確かに、旅行業界は深刻な打撃を受けていることだろう。当然、何らかの支援策は必要だ。実際に、「Go to トラベル」キャンペーンの予算を手当てする補正予算は与野党が賛成して成立しており、キャンペーンの実施自体は与野党ともに合意されている。

 しかし、感染者が増加している今、本当に直ぐに実施すべきキャンペーンなのだろうか。

 

そんな疑問が当然に湧く中で、全国の知事ら首長からも不安の声が上がっている。

www3.nhk.or.jp

 

 批判の高まりを受けて、政府は東京都発着の旅行はキャンペーンの対象から除外するという方針を打ち出した。

www.jiji.com

 

 何も対策をしないよりは効果があるのかもしれないが、これでは根本的な解決にはならない。

 東京都を目的地とする旅行や都内の旅行、都内居住者の旅行が除外対象とのことだが、それでは都内を通過する旅行には補助がなされることになる。東京都はあくまで通過するだけとし、例えば食事などを都内で行い、東京を経由する旅行をする人は一定数いるはずだ。そういう人が都内で感染して、そのまま居住地に帰り、そこで感染を広げてしまう可能性がある。

 

 

閣議決定では、「Go to トラベル」キャンペーンは感染収束後

 そもそも、4月になされた閣議決定では、「Go to トラベル」キャンペーンは感染収束後に国民の不安が払拭された後に行うものとされていた。

www.tokyo-np.co.jp

 

この点について、15日に行われた衆院予算委員会の閉会中審査で、国民民主党の馬淵澄夫議員が西村康稔経済再生担当相に問い質している。

結局、西村大臣は、感染が増えていることは十分に理解していると答弁したものの、国民の不安が払拭されたか否かについては明確に答弁しなかった。

 

旅行業界への何らかの支援策は一日も早い方が良いに越したことはない。しかし、国民の不安がある中で、その不安を増長させるような支援策は控えるべきだろう。

閣議決定でも、感染の収束後、国民の不安が払拭された際に行うとしているのだから、その決定に忠実であるべきだ。

 

 

必要であれば、別の支援策を

 もちろん、旅行業界が厳しい状況にはあることは疑いようがない。

 「Go to トラベル」キャンペーンでも何でも、旅行業界を支援する策であれば、何でも早く実施して欲しいという声もあることだろう。

 

ただ、旅行の需要を助成によって喚起することが現段階での適切な支援策なのだろうか。

 感染が落ち着いた後に一日も早く実施するべき策としては「Go to トラベル」キャンペーンが適切かもしれないが、感染が落ち着かずに、国民の不安も一定程度ある中では、やはり別の支援策を考えるべきだ。

 「Go to トラベル」キャンペーンを強行した結果、全国に感染を拡大させてしまっては元も子もない。

 

 旅行業界に対する支援策が必要なことは与野党で共通の認識であるのだから、「Go to トラベル」キャンペーンにこだわらず、早く別の支援策を考えたらどうだろうか。

 既に売り上げが落ちた企業や事業主への支援策は講じられている。短期的な効果しか見込めないかもしれないが、旅行業界の企業や事業主に対する支援を増額するといったことを考えてはどうか。

 

 一度決めたことは意地でも強行するというのが政府の悪いところ。もっと柔軟に方針転換を行い、支援が必要されるところに可能な限りの支援を迅速に届ける策を考えて実行して欲しいものである。

 多くの国民が望んでいるのは、今後も旅行が楽しめるような旅行業界が維持されることであって、今この時に感染のリスクを犯してまで旅行に行くことではない。