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広島県だけではなく自民党の遵法精神が問われている

河井夫妻から現金を受け取った首長二人が辞職

 河井克行・案里夫妻が買収容疑で逮捕された。二人の逮捕後、買収の相手方に関する情報も各紙で盛んに報道されるようになってきた。

 河井夫妻の選挙区がある広島県内の首長や地方議員の具体的な氏名が報じられ、本人が金銭の受領を認める記者会見を開くことも続いている。

news.yahoo.co.jp

 

 広島県安芸高田市の児玉浩市長も金銭の受領を認める記者会見を行った一人だ。

www.asahi.com

 

 その様子を報じた記事にあるように、児玉市長は頭を丸刈りにして記者会見に臨んでいる。丸刈りにしたからといって許されるわけではないことは明らかだが、どういうつもりなのだろうか。

 市民からの抗議の声も集まっているとのことだが、それも当然だろう。

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 他に金銭の受領を認めた三原市長の天満祥典氏は既に辞職を表明している。

www.asahi.com

 

 さらには、安芸太田町の小坂真治前町長は金銭の受領を認めて既に辞職をしており、町長選が行われて新町長が誕生済みである。

www.jiji.com

mainichi.jp

 

 河井夫妻から現金を渡されたことを認めた首長は上記の3名であり、児玉市長だけが現段階では辞職せずにその地位に留まろうとしている。どこまで持ち応えられるか不明だが、既に二人の首長が辞職という判断をしたことは重い。

 辞職した二人は社会的制裁を受けたとして、それ以上の法的責任が問われない可能性もあるようだが、そうであるとすると、辞職しない児玉市長は苦しい立場に置かれることになろう。

 そもそも、児玉市長は今年4月の市長選挙で無投票当選を果たして市長を務めている。その市長選挙の前に検察の聴取を受けていたとのことで、疑惑を知った上でそれを隠して市長選挙に臨んでいたのだから道義的責任は重い。

www.chugoku-np.co.jp

 

 

議員による「当選祝い」「陣中見舞い」もアウト

首長の他にも広島県内の多数の地方議員が河井夫妻から現金を受け取っている。

www.chugoku-np.co.jp

 

 その数の多さもあって、全員は立件されないのではないかとの憶測もあるようだが、選挙における買収は頼んだ側(今回は河井夫妻)だけではなく、頼まれて金銭を受け取った側(今回は首長や議員、その他の関係者)も処罰対象になる。

これは政治家であれば当然誰もが知っていることである。河井氏との関係も考えて現金を受け取ってしまった議員もいるようだが、なかには現金が入ったと思われる封筒を突き返した議員や後日返却した議員もいる。

 

 一方で、「当選祝い」「陣中見舞い」として河井夫妻から提供されたので受け取ったとしている議員もいる。そのように主張すれば、買収ではなく、違法にもならないと考えているのかもしれない。しかし、それは認識を誤っている。むしろ、恒常的に違反行為が行われていて、正常な判断が出来なくなっていたのではないかとさえ思えてくる。

 

 一個人が政治家(首長や議員、立候補予定者や候補者)の政治活動に対して行う寄附は認められている。しかし、その寄附は金銭及び有価証券によるものが原則として禁止されており、年間150万円以内の物品等に限定されている。そこで、「当選祝い」については、個人が物品をもって行うのであれば可能である。

 

では、「陣中見舞い」も物品であれば可能かと言うと、そう簡単ではない。選挙期間中は、選挙運動に関わり候補者および有権者による飲食物の提供が基本的に禁止されている。その関係で、「陣中見舞い」として物品を渡すことは可能だが、飲食物を渡すことが認められていない。かわりに金銭を渡すことが認められている。

 これは、あくまで一個人の場合だ。「当選祝い」や「陣中見舞い」が認められているというのは、この一個人による場合のことを指している。

 

 対して、政治家は選挙区内での寄附行為を禁じられている(公職選挙法第199条の2)。河井克行議員の場合は自身の選挙区である広島3区内、案里議員の場合には広島県選挙区なので広島県内での寄附行為が禁じられているのだ。「当選祝い」であっても、あるいは「陣中見舞い」であっても、金銭を選挙区内での寄附行為は禁止されているのである。

 

 

支部間の金銭の流れであれば領収書と収支報告書への記載が必須

 もちろん、多くの国会議員が地方議員に金銭を渡しているではないかとの疑問も浮かぶことだろう。

 それは、以下のような金銭の動きが認められており、実際に利用されていることによる。

 

政党

↓①

選挙区支部(現職の国会議員が支部長)

↓②

地方支部(国会議員や県会議員が支部長)

市町村支部(各地方議員が支部長)

 

 今回、河井夫妻が自民党本部から受け取ったお金も①の流れである。

 これは党勢拡大のために使用するということで政治団体間において認められている寄附行為であり、この仕組みを使って、自民党であれば、毎年ほぼ決まった金額が国会議員へ、そして国会議員から各地方議員のもとへと流れてくることになっている。

 河井夫妻も合法的に地方議員に金銭を渡すのであれば、②の流れに乗せれば良かったわけだが、この場合、受け取った支部から領収書を発行してもらい、自らの選挙区支部の政治資金収支報告書に寄附した旨を記載する必要がある。

 

 しかし、河井夫妻は地方議員に対して領収書の発行を求めていないようだ。

www.yomiuri.co.jp

 

 その時点で、河井夫妻が合法的に地方議員に金銭を渡そうとしていないことは明らかだ。そして、受け取った側も合法的ではない渡され方をしていることを認識していることも明らかである。

 そういう合法ではない金銭の授受がなかば当然のように行われている。少なくとも広島県内の自民党関係者は遵法精神が希薄なようだ。

 もちろん、金銭の出所は自民党本部であり、自民党全体としても遵法精神が問われていることは言うまでもない。