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コロナウイルスの陰で見落されそうな国政上の課題

コロナ以外にも重要な課題がある

 連日、新型コロナウイルスがマスコミでも国会でも大きく取り上げられている。それだけの一大事であることは論を待たないが、新型コロナウイルス対策だけが日本の直面する課題ではないことも忘れてはならないだろう。
 野党が安倍政権のスキャンダルを追及すると、「もっと重要な課題が他にある」と批判する人が出てくるが、まさに今こそ「大事なことは他にもある」ということを指摘したいところだ。

 実際、国会審議を見ていると、与野党の議員が行う質疑は必ずしもコロナ一色ではないことが分かる。もちろん、これだけの深刻な事態に、どの議員も質問に立てば新型コロナウイルスに関する話題から質問に入るが、その後は各自の関心に基づき様々なテーマについて質疑を行っている。
 そんな中で、少し気になったのが3月16日の国民民主党の舟山康江議員による参議院予算委員会での質疑だ。

www.dpfp.or.jp

舟山議員の質疑と提示されたパネル

 舟山議員も新型コロナウイルス感染症に関する質問を行っている。この点では、他の議員と変わるところはない。何なら、国民民主党のwebサイトにおける取り上げ方も新型コロナウイルスに関連させるように、「政府がすべて補償するというメッセージを」という発言をタイトルにしている。
 ただ、舟山議員の質問では、新型コロナウイルスの話題から転じて、感染拡大前から経済指標の悪化が見られたことを指摘し、そこから安倍総理に対して、景気に対する現状認識、景気低迷の理由、消費増税に対する反動減対策の効果を質すという流れが的確であった。
 衆参両院の予算委員会を中心に、他にも同様に景気低迷について質問する議員はいるにはいた。その話題を取り上げること自体は目新しいことでもない。ただ、舟山議員が的確だったのは、議論の展開の仕方と委員会で提示したパネル資料の使い方だ。

 ところで、多くの議員が質疑で使用したパネルは事後に確認しにくく、「国会中継の録画画像の何分何十秒あたりに登場する」といった説明をするしかないが実情だ。
 対して、舟山議員はこの点も気が利いている。国民民主党のWebサイトに、委員会で使用したパネル(PDF)が掲載されているのだ。これを見ることで、当日は画面にチラチラと映っていたものがじっくりと確認することが出来る。

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森林環境贈与税や外国船違法操業問題

 舟山議員が使用したパネルを確認すると、新型コロナウイルス感染拡大前後の経済状況に関する資料の他に、森林環境贈与税の配分、スルメイカ水揚げ量の減少や外国船違法操業問題に関する資料があることが分かる。
 予算委員会では十分に議論出来なかったところもあるが、いずれの問題も重要であり、新型コロナウイルス感染症の問題にかかわらず、国会で審議されるべき事柄であると言える。

 森林環境贈与税は2019年から自治体に配分が始まったものである。この制度は少し分かりにくいのだが、2024年から森林環境税を個人住民税に上乗せして徴収し、それを原資に森林の間伐や林業の担い手確保、木材の利活用推進のために自治体に森林環境贈与税として配分することになっている。
 年度を見れば分かるように、現在はまだ税金を徴収する前の段階である。しかし、森林保全の取り組みを前倒しするために、特別会計の借入金を原資として、自治体に対する森林環境贈与税の配分を開始している。

www.jiji.com

 舟山議員が問題視したのは、その配分が不適正なのではないかということである。森林の少ない都市部、例えば横浜市や大阪市、名古屋市への配分が厚くなっているというのである。
 舟山議員はその配分の基準を改めるよう安倍総理に提案したが、安倍総理は明確な回答をせずに、煮え切らない答弁に終始した。

 もうひとつの質問のテーマが外国船違法操業問題についてである。
 パネルでは、スルメイカの水揚げ量の減少と外国船へ行った退去警告の件数のグラフが示されている。
 スルメイカの水揚げ量は激減する一方で、海上保安庁や水産庁による外国船への退去警告数は一定数を保っている。グラフでは、スルメイカの水揚げ量は全国のもの、退去警告数は日本海の大和堆でのもの、と単純に両者の間に因果関係を認めるわけにはいかないが、外国船の違法操業により、日本の漁業が脅かされていること自体は否定しがたい。
 舟山議員は、2018年に閣議決定された「第3期海洋基本計画」では、外国船等の違法操業については政府として重要な課題と認識しているとありながら、内閣府総合海洋制作本部や外務省の取り組みが不十分な点を指摘している。

 この点も舟山議員による問題の指摘に留まり、政府としての今後の対応については明確とはならなかった。それこそ、コロナウイルスの治療方法が確立されたとしても、外国船による違法操業が減ることはなく、今後も日本政府として頭を悩ませる問題となることは間違いない。

 森林環境贈与税や外国船違法操業問題は新型コロナウイルスの感染拡大の前に霞んでしまうようなテーマである。ただ、新型コロナウイルスを克服したとしても、その問題が解消されるということは当然なく、現段階で対応を疎かにして良いということでもない。
 どうしても誰もが目の前の一大事に気を取られてしまうが、そこだけに集中するのではなく、様々ある日本の課題に常に向き合っていきたいところだ。特に舟山議員のように野党の立場から、手薄になりがちな分野にもついて国会審議で問いただし、課題解決を迫るのは重要なこと。そして、そのような国会での議員の立ち振る舞いについて、国民としては目を向けていきたいところだ。