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検察庁を自らの掌中にしようとする安倍政権 -黒川東京高検検事長の定年延長による検察人事への介入-

黒川氏の定年延長を強行

 官僚制を悪しきものへと変えることは、もはや安倍政権では当然の光景になりつつあるようだが、ここにきて、また前代未聞のことが起きた。
 それが黒川弘務東京高検検事長の定年延長だ。

www.tokyo-np.co.jp

 

 

 2月8日で定年となることが予定されていた黒川氏。その定年の延長を閣議決定してしまったのだ。
 そもそも検察庁法では検察官の定年を63歳、検事総長は65歳と規定している。
 このほど黒川氏は63歳となるため定年となるはずだった。しかし、黒川氏は安倍総理と菅官房長官からの信頼が厚いとされている。そこで、定年となって検察から去る前に検察トップである検事総長に就かせようと、検察庁法を無視し、国家公務員法の規定を持ち出して定年を延長させたのだ。
 この点、検察官は国家公務員法の定年延長の規定は適用されないとの政府見解がかつて示されていた。このことを国会審議で追及されても、森法務大臣はまともな答弁をせずに、適法と繰り返すばかりである。もう無理に無理を重ねていることは明らかだ。

www.asahi.com

 

黒川氏優遇のために検察人事を歪める

 これまでにも黒川氏の人事に官邸が介入したとされており、何としても黒川氏をトップに据えたい官邸の意向が今回は露骨に反映されたことになる。

 黒川氏には名古屋高検検事長の林真琴氏というライバルがおり、黒川氏がこの2月に定年退職し、黒川氏が務める東京高検検事長に林氏が横滑りする人事が予定されていたようである。しかし、それが官邸からの横槍で頓挫したことになる。

 これまでの黒川氏の人事への介入は全て林氏との関係においてなされてきたもので、今回も官邸の意向により検察の人事が歪められた。

 現在の検事総長の稲田伸夫氏は8月に定年を迎える。検事総長には東京高検検事長から昇格することが慣例となっており、林氏が黒川氏から東京高検検事長を引き継げば、そのまま林氏が次期検事総長にという流れが想定されていた。しかし、黒川氏の定年が延長されたため、このままでは7月に定年を迎える林氏が先に検察から去ることになり、その場合には東京高検検事長に留まる黒川氏が次期検事総長の最有力候補となる。

検察を掌中にするための介入

 検事総長の人事は重要なことではないように思われるかもしれない。
しかし、検察は総理を捕まえることが出来る強大な力を持っている。それゆえ、政治から独立性がこれまで強く意識されてきた。特に検察のトップの検事総長については、前任の検事総長が後任を決めることが慣例とされており、そこからは政治的判断が排除されてきた。これをもって、検察の職権行使の独立性の象徴ともされてきたのだ。
 時の政権にも阿ることなく、必要とあれば総理大臣の疑惑も追及する。実際、現職の総理大臣の疑惑が検察によって追及されたこともある。
 しかし、この検察の独立性が今回の定年延長という介入により崩されようとしている

 今回の黒川氏の定年延長は極めて分かりやすい介入だ。
 何と言っても定年延長の閣議決定の直後、IRをめぐる汚職事件について、秋元司・元IR担当副大臣を追起訴しただけで捜査を打ち切り、中国企業などから金を受け取っていた他の5名の国会議員の立件を東京地検特捜部が見送るとの報道が駆け巡った。

www.msn.com

 

 検察庁の人事に介入し、自らにとって都合の良い人物をトップに据えることで、その組織を掌中にする。黒川氏の定年延長、そして検事総長就任となれば、政治から独立していたはずの検察庁も政権の意向に沿って活動する組織になり果てることを意味する。極めて危険な事態が進行していることを決して見落としてはならない。