霞が関から見た永田町

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共謀罪の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が衆議院を通過

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」が衆議院を通過した。

 

 ここには正式な名称を書いたが、報道などでは、共謀罪の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案とか、共謀罪の構成要件を改めてテロ等準備罪を新設する法案などと呼ばれている法案である。その審議の過程で、金田法務大臣の答弁に難があり、ごく基本的な事項に関する説明まで官僚に頼る場面も見られたため、法務大臣の不信任案が出される一幕があるなど、最後まで政府と野党の質問者の議論がかみ合わず、詳細が明らかにならない論点も残る中での衆議院通過となった。

 

 この法律案の提案の理由が法務省のWebサイトで公開されている。

 http://www.moj.go.jp/content/001221007.pdf

 

これを見ると、犯罪の国際化と組織化という状況があげられ、さらに、いわゆる国際組織犯罪防止条約の締結に伴い、テロリズム集団や組織的犯罪集団の実行準備行為についての処罰規定を準備する必要があるといったことが書かれている。

 

 国際組織犯罪防止条約は、2003年に国会で締結することが承認されている。しかし、国連加盟国の大半が締結するなかで、日本では実際の締結には至っておらず、その原因として、この条約を実施するための国内法が成立していないことがあげられている。

 

外務省Webサイト 

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/soshiki/boshi.html

 

 この国際組織犯罪防止条約では、「組織的な犯罪集団」を「金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため」に「犯罪を行うことを目的として一体として行動する行動するもの」と定めている。これだけを見ると、日本では、暴力団のような組織が対象になるように思える。今回改正される「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」も、1999年に暴力団などの組織犯罪を取り締まるために制定されたという経緯がある。

 

ただ、テロ等準備罪を新設する法案と呼ばれることもあるように、今回の法案はテロ対策という側面を強調した内容になっている。これまでも存在していた組織的犯罪を処罰するための法律にテロ対策という観点を盛り込んで、なおかつ、これまでは出来なかった計画段階での処罰を広範に可能とする改正を行うというものとまとめられそうである。

 

このテロ対策の観点は金田大臣をはじめ政府側の答弁で何度も繰り返されてきた。ただ、法案採決の日ともなった5月19日の法務委員会の民進党山尾志桜里議員との質疑の中で、この法案の提案理由となる立法事実を問われ、テロ対策とは言わずに、条約締結のためであると金田大臣は答弁した。法務省のWebサイトでも公開されている提案の理由には条約締結のためとなっており、結果としてその趣旨に沿う答弁をしただけとも言えるが、審議の過程では誰もが反対しにくいテロ対策を前面に出しながら、採決の直前になって、答弁を翻したとも言えそうである。

 

このテロ対策の観点については、今後、この法律改正が成立し、実際の運用段階になった際には問題が生じる可能性がある。法務委員会の質疑では、民進党などの野党側から質問に対して、「一般の国民や正当な活動を行っている団体は対象にならない」と政府側は答えている。確かに、国際組織犯罪防止条約の条文にもあるような金銭的な利益を得るための「組織的な犯罪集団」は、日本では暴力団のような集団が想定され、一般の国民や正当な活動を行う団体が含まれないのは明らかであるように思えるが、テロリズム集団であるかどうかの判断は外からは困難だと言わざるをえない。

 

もちろん、金田法務大臣をはじめ政権与党は、一般の国民や正当な活動を行う団体をテロリズム集団として取り締まろうとは思っていないだろう。しかし、法律が改正されたあかつきには、その運用に当たるのは捜査機関だ。計画段階でも共謀罪として処罰対象に出来るということは、捜査機関が「怪しい」と誤認した場合、あるいは、一般の国民が「あの集団は怪しい、テロを起こそうとしている」と思い告発すれば、その集団が捜査の対象になる。

 

組織犯罪やテロリズム集団を取り締まるための法律は必要であるが、計画段階でも処罰が可能となると、恣意的な運用や制度の悪用がなされたときに、歯止めが効きにくくなる。法務委員会の質疑では、どのような事例で共謀罪に問われる可能性があるのかといった点につき、必ずしも十分に明らかとなったとは言えず、恣意的な運用や悪用に対する制度的な歯止めに関しての具体的な言及はなかった。

 

今後は、議論が参議院の舞台に移る。一般の国民や正当な活動を行う団体が誤って共謀罪に問われることがないよう、より慎重な検討を求めたいところだ。