霞が関から見た永田町

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都議選の動向と地方議会改革

都議選の争点としての議会改革


 この7月に、東京都議会議員選挙が控えています。各党や各候補は様々な政策を掲げて選挙に臨むものと思われますが、今回の選挙で最も注目を集めることになりそうな都民ファーストの会が公約の一部として議会改革に関する部分を公表したと報道されています。知事が議員に逆質問する「反問権」の導入などを盛り込んだ議会改革条例を議員提案で制定しようというのです。


 ここで反問権については、説明が必要であろうと思います。地方議会では、知事や市長などの首長は、議員から質問を受けても、それに応答することしか出来ません。反問権の導入というのは、首長が議員に対して質問の趣旨を問い質したり、逆に質問をし返したりすることを認めることを意味します。


 議会改革条例や反問権導入ということは何か目新しいことのようにも見えますが、実際にはそうではありません。むしろ、現段階でそのようなことを検討しなければならないこと自体に、そして、それが知事を中心とする勢力から提案されなければならないところに、都議会の停滞なり遅れを見て取ることが出来ます。


東京都議会でも議会改革が進もうとしていると言えそうですが、既に全国各地で地方議会改革が進展しており、反問権も明記した議会基本条例の制定は800を超える議会でなされています。例えば、東京都の隣の神奈川県議会は、2010年に議会基本条例を制定し、その第16条で知事の反問権について定めています。一方で、千葉県や埼玉県では議会基本条例は未制定ですので、この段階で議会改革のための条例制定を目指すのは評価されるべき事柄かもしれません。

 

議会基本条例の普及


 ここで、特に説明もなく「議会基本条例」に言及しましたが、この議会基本条例は、2006年に北海道栗山町議会が全国に先駆けて制定した条例です。その後、同様の条例の制定が全国に広がり、現在では800を超える自治体の議会で制定されるに至っています。この議会基本条例を制定しているか否かが、その議会がきちんとした活動をしているのか否かを見分ける指標のひとつにすらなっています。


 議会基本条例は、日本の地方自治において採用されている首長と議員を別々の選挙で選出する二元代表制を前提として、議会およびに議員の役割や議会と首長との関係、さらには議会と住民の関係などを定めた条例です。反問権は、議会と首長との関係に関して定める条項の中で言及されるものです。地方議会の議場における議員と首長のやりとりに関しては、その他に一問一答形式を採用することが謳われることもあります。従来は、議員が一括であらゆることを質問し、首長はそれに対して一括で答弁するということが行われていました。議員が何十分も質問を読み上げ、首長も何十分も答弁を読み上げるということが常態化していたと言っても良いと思います。そのような中で、議員と首長のやりとりを明確なものにし、実りあるやりとりがなされるように一問一答形式を導入しようというのです。


 就任直後の議会で、小池都知事が議員からの質問に対して答弁漏れがあるということで批判されるという一幕がありました。これも、様々な事情があったと思いますが、一括で議員が質問をし、一括で首長が答弁するゆえに起きたとも言えます。一問一答形式であれば、一つの質問に一つの回答を行うのですから、単純な答弁漏れは起きません。首長が反問権を行使する場合にも、どの質問に対して反問するのか明確になります。


 栗山町議会が議会基本条例を制定した契機は、2005年に実施した議会報告会です。議員個人が自らの支持者向けに議会活動に関する報告会を実施したりすることはありますが、栗町議会が行ったのは議会としての報告会です。議員が地域に出向き、議会活動に関する報告を行ったり、意見交換を行ったりするのが議会報告会です。栗山町議会が実施した議会報告会に参加した町民から、この種の取り組みを継続することが提案され、それを受けて議会報告会に留まらず、議会のあり方を含めた条例を制定することになり、それが議会基本条例となったのです。


 都民ファーストの会の公約には、住民の参加を促す公聴会の実施というものもあるようですが、イメージとしては、栗山町議会など議会基本条例を制定しているような議会が実施している議会報告会のようなものを実施するということなのかもしれません。今回の都議会議員選挙をきっかけとして、東京都議会でも議会改革の取り組みが進められていくのか注目したいところです。
 
地方制度調査会による答申


 ところで、地方議会と国政はあまり関係がないのではないか、国政の争点を地方政治に持ち込むなという議論がなされます。それは一理あるとは思いますが、地方自治や地方議会に関しては、地方自治法などの法律が存在しています。そして、その法律は国政の場で決められます。


現在の地方議会のあり方に関しては、第29次地方制度調査会と第30次地方制度調査会における議論が大きな影響を及ぼしています。地方制度調査会は地方制度調査会設置法に基づき、内閣総理大臣の諮問に応じて地方制度に関する重要事項を調査審議することを任務としています。委員は、国会議員、地方議員、首長や職員、学識経験者から内閣総理大臣が任命します。第29次の名簿を見ても確認出来ますが、地方議員や首長については、全国知事会全国都道府県議会議長会全国市長会全国市議会議長会・全国町村長会・全国町村議会議長会から一人ずつ任命されています。ここでの議論や答申が地方自治に関わる法律、具体的には地方自治法の改正などにつながるのです。


 第29次地方制度調査会は、2007年7月に当時の安倍総理による諮問を受けて設置されたものです。この時には、基礎自治体のあり方や監査機能の充実などについて調査審議が求められました。答申は、2009年6月に「今後の基礎自治体及び監査・議会制度のあり方に関する答申」として出されました。この答申に以下のような一文があります。

 

 「近年、それぞれの議会において、議会の活動理念とともに、審議の活性化や住民参加等を規定した議会基本条例を制定するなど、従来の運用の見直しに向けた動きが見られるところであり、引き続きこのような自主的な取組が進められることが期待される。」 (http://www.soumu.go.jp/main_content/000034495.pdf)


2006年に栗山町議会により制定され、2009年当時で既に全国の議会で制定されるようになっていた議会基本条例に対して、いわば「国としてのお墨付き」がこの一文によって与えられたと言えます。そして、この答申もあってか、議会基本条例の制定はさらに広がりを見せていくことになります。


次の第30次地方制度調査会は、2011年8月に発足しています。この時には、当時の菅首相から以下のように諮問されました。

 

 「住民の意向をより一層地方公共団体の運営に反映できるようにする見地からの議会のあり方を始めとする住民自治のあり方、我が国の社会経済、地域社会などの変容に対応した大都市制度のあり方及び東日本大震災を踏まえた基礎自治体の担うべき役割や行政体制のあり方などについて、地方自治の一層の推進を図る観点から、調査審議を求める。」
 (http://www.soumu.go.jp/main_content/000128478.pdf)

 

 この第30次地方制度調査会の審議の過程で、地方自治法の改正案が国会に提出されることになり、2011年12月に「地方自治法改正案に関する意見」が出されました。2012年に地方自治法は改正されることになりますが、この改正では地方議会に関するものも含まれていました。


その後、第30次地方制度調査会は当時の橋下徹大阪市長らが提唱していた大阪都構想とも関連して、大都市制度に関する調査審議を行いました。2012年7月には、超党派による共同提案で「大都市地域特別区設置法案」が国会に提出され、同年8月に成立しました。この法律に基づいて、2015年には、大阪都構想に関する住民投票が行われました。


 大阪都構想のような目立つ取り組みがあれば、それは注目されるところですが、基本的には、安倍総理の下の第29次地方制度調査会や菅総理の下の第30次地方制度調査会について、その諮問事項やその答申が注目されることはありません。しかし、この二次にわたる調査会において、現在の地方議会改革の流れが確かなものとされたことは間違いありません。

 

議会改革の契機としての選挙を


 2012年の地方自治法改正では、「政務調査費」を「政務活動費」へと変更し、交付の方法や使途の範囲を条例で定めることとする改正もありました。この後、政務活動費の不正使用などが相次ぎ、地方議会や地方議員に対しては特に厳しい目が向けられるようになりました。この変更自体は、より議員活動への支援を明確化するためということで、地方制度調査会からではなく、国会議員からの発意によってなされたものです。


 その他、2012年の地方自治法改正では、地方議会において、いわゆる通年議会を可能とする改正もなされました。つまり、地方自治法第百二条の二に以下のように規定されたのです。

 

普通地方公共団体の議会は、前条の規定にかかわらず、条例で定めるところにより、定例会及び臨時会とせず、毎年、条例で定める日から翌年の当該日の前日までを会期とすることができる。」

 

それまでは、その都度、首長が議会を招集するという手続きを必要としていたのですが、条例を定めることにより、例えば5月1日を起点に一年間を会期として議会を開催することが可能となったのです。通年議会を導入した議会でも、実際には、これまで通り定例会を3月、6月、9月、12月に開催して、その間は議長の判断で休会と再開を繰り返すという運用が行われています。それでも、必要に応じて、議会を直ぐに再開出来るので、議会の機動性が格段に増していると言えるでしょう。都内でも、既に2013年から荒川区議会が通年議会制を取り入れています。


 小池都知事の誕生により、にわかに東京都議会のあり方も注目を集めるようになりました。その都議会を構成する議員を選ぶ選挙が目前に迫っているわけです。冒頭にも書いたように、小池都知事を中心とする都民ファーストの会は議会改革を公約に掲げています。民進党の都議選政策「民進党2017年東京マニフェスト」にも、議会基本条例の提案が掲げられ、そこには通年議会の実現を目指すことも明らかにされています。その他の党も、おそらく議会改革に関して言及するものと思われます。
都議会という極めて大きな地方議会が今回の選挙によってどのように改革の舵を切ることになるのか、今から目が離せません。