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議員自ら身を切る改革はなぜ進まないのか?国会議員のスキャンダルが減らない理由

 

 

 直近を振り返っただけでも国会議員のスキャンダルは枚挙にいとまがない。「この、ハゲェー」発言で自民党を離党した豊田真由子氏、弁護士との不倫疑惑で民進党を離党した山尾志桜里氏、議員宿舎に親族とは関係のない女性を泊めたことで、この総選挙の公認が取り消しになった公明党の樋口尚也氏。もう少し時間をさかのぼれば、自民党の魔の2回生に絞っても、ゲス不倫の宮崎謙介氏、未成年男性売春問題を起こして自民党を離党した武藤貴也氏、これまた不倫問題で自民党を離党した中川俊直氏など、うんざりするほどの国会議員のスキャンダル。

 

 

そんな国会議員の議員歳費は年収ベースで約2200万円。このほかに、文書通信交通滞在費が1200万円、立法事務費が780万円、政党交付金が議員一人あたり4000万円が支払われている。特に文書通信費は領収書の公開が義務付けられていないため、何に使われているか分からない第二の給料と言われている。実はこの文書通信費にならって創設されたのが、地方議員の政務活動費です。兵庫県議の号泣記者会見によって一躍注目されることになった政務活動費をめぐっては、2016年に不正使用が原因で14人もの富山市議が辞職したり、2017年には神戸市議会で自民党市議3人が政務活動費の不正使用で書類送検されるなど、目を覆いたくなる惨状となっている。

 

 

 

地方議員の政務活動費の不正使用がバレるワケ

 

ただ、地方議会はまだましだ。なぜなら、地方議会は政務活動費の領収書は公開されているからである。こうした不祥事が発覚するのは、政務活動費の領収書は条例でフルオープンになっているため、オンブズマンなどのチェックによって不正使用が明るみになる。透明性が担保されているがゆえの不祥事発覚である。言い方を変えれば、領収書が公開になり、おかしな使い方をしていれば、すぐにバレるにも関わらず、地方議員の政務活動費の不正使用が後を絶たないのだとすると、領収書の公開が義務付けられていない国会議員はどうなっているのだろうか。

 

 

普通の国民感情からすれば、地方議員以上に使い方はザルだと思わざるを得ない。2019年に消費増税10%が控えている中で、自治体によって国民健康保険料の値上げや、上下水道料金の値上げなど、国民の負担感は増している。にも関わらず、国会議員の身を切る改革は一向に進む気配がない。これは一体、なぜなのか。

 

 

理由は至って簡単で、身を切る改革をしても有権者が評価しないからだ。「そんなことはない」と思われるかもしれないが、では実際、どれだけ多くの有権者が日本維新の会の国会議員が文書通信交通滞在費の使途を公開しているかご存知だろうか。世論調査をすれば、おそらくほとんどの有権者は知らないだろう。選挙ではどの議員も「身を切る改革」を訴える。それでも一向に改革が前に進まないのは、国会議員は有権者のことを見透かしているからだ。どうせすぐに忘れるし、改革したところで実は評価されない、ということを。

 

 

 

文書通信交通滞在費を公開している政党を知っていますか?

 

実際、日本維新の会の前身である維新の党の時代にも文書通信交通滞在費を公開していたが、維新の党から民進党に移った国家議員は、その瞬間に文書通信交通滞在費の公開はストップしているのである。文書通信交通滞在費は法律で公開が定められているわけではないから、やろうと思えば、自主的に公開ができる。所属政党が維新の党から民進党に変わろうが、その議員が改革に本気であれば、自主公開を続けたはずだ。ただ残念ながら、その痕跡は見られなかった。これもまた、使い道の公開を止めたとしても、どうせ有権者には気づかれないという議員心理が働いたとしか思えないのである。

 

文書通信交通滞在費の使途を公開していると日本維新の会を少し持ち上げてみせたが、実はこの公開自体もザルで、領収書が公開されているわけではない。加えていえば、公開しているといっても、よくよく見ると逃げ道を作っている。日本維新の会のウェブサイトを見てもらうのが一番早いが、文書通信交通滞在費の多くを自身が保有する資金管理団体や政党支部につけ替えをしているのだ。

文書通信交通滞在費|活動情報|日本維新の会

 

 

 

お金に色は付いてない

 

資金管理団体や政党支部への付け替えがなぜダメなのか。もちろん、これらの団体の場合、領収書の公開が義務つけられているので、使い道はオープンになるが、問題はお金に色がないことにある。資金管理団体や政党支部には様々なルート、色々なお金が入ってくる。それは個人献金であったり、政治資金パーティーの収入であったり、あるいは政党交付金だったり、様々だ。そこに文書通信交通滞在費のお金を入れてしまったら、何が起きるか。文書通信交通滞在費が本当に法律の趣旨に照らし合わせて適切な使い方をされているのか、チェックが効かないのだ。国会法第38条に文書通信交通滞在費を定めている。少し引用しよう。「議員は、公の書類を発送し公の性質を有する通信をなす等のため、別に定めるところにより手当を受ける」。これが法律の定義する文書通信交通滞在費だ。だから人件費に充当したり、あるいは飲食に充当したりすることは本来、できない。しかし、政党支部や資金管理団体に付け替えれば、それも可能だ。

 

 

ちなみに、地方議員の政務活動費は条例で使途を厳格に定めており、当然のこととして、資金管理団体や政党支部への付け替えは不可能である。国会議員の文書通信交通滞在費と、地方議員の政務活動費の運用ルールの厳しさは雲泥の差があるのだ。この辺をメディアはほとんど報道しないため、不正使用が発覚するために、地方議員ばかりがバッシングされるが、どう考えても国会議員の文書通信交通滞在費の方が金額も大きく、使い道も適当に運用されているとしか思えない。

 

 

 

議員報酬半減でも評価はされなかった

 

選挙の一瞬では関心をよんだとしても、長続きしない事例として減税日本にも触れておかないといけないだろう。減税日本は2011年の統一地方選挙で、名古屋市議会議員の議員報酬を半額の800万円に削減することを公約に戦い、大躍進した。それでも減税日本の所属議員の失言や他のスキャンダルなどによって信頼を失ってしまったため、せっかく身を切る改革を続行していても、それが彼らの評価には繋がっていないのである。とうとう2016年3月の市議会で議員報酬を1455万円に増額する議案が可決されてしまった。

 

 

国政選挙も振り返ってみれば、みんなの党が身を切る改革を訴え、日本維新の会が身を切る改革を訴えてきた。今回の総選挙でも希望の党が「議員定数の削減と議員報酬の削減」、立憲民主党は「議員定数の削減と、企業団体献金の禁止」、日本維新の会が「議員定数の削減と議員報酬の削減、文書通信交通滞在費の公開」を掲げている。問題はそれぞれの党が歩み寄れるか、だろう。優先順位もあるだろう。報酬削減より定数削減に重きを置いているのか、それとも定数削減よりも報酬削減に重きを置いているのか。議員自ら身を切る改革を本当に実現しようと思えば、こと、この政策分野に関してはお互いの歩み寄りが大事だ。この際、優先順位には目をつぶって、世論を味方につけやすいものから手をつけるという、大人の対応も必要だろう。ここで「絶対に定数削減から手を付けなければダメだ」と意地をはることは何も意味を持たない。その点では既に日本維新の会が着手している文書通信交通滞在費の公開に、野党が足並みを揃えて、自民党、公明党に改革を迫るというのは一つの手法としてあり得るだろう。もう、かけ声だけの身を切る改革に私たち有権者は騙されてはいけない。本当にやる気があるのか、そここそが問われている。