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福島第一原発と同型の原子炉が合格 | 原発は本当に日本に必要か?

柏崎刈羽、沸騰型としては初の適合判断

 原子力規制委員会が東京電力の柏崎刈羽原発6号機、7号機(新潟県)について、重大事故対策が新規制基準に適合したとする審査書案を了承した。新聞、テレビは一斉に「事実上の合格」と報じた。3.11での東京電力の福島第一原発事故を踏まえて、原子力規制委員会が従来の安全基準を強化して、新たな規制基準を設けたことは、多くの読者はご存知の通りである。この新基準をクリアしなければ、原発は再稼働できない。

 

 

 これまでに関西電力の高浜原発や九州電力の川内原発などが再稼働しているが、柏崎刈羽原発のニュースがこれまでの原発と決定的に異なるのは、沸騰型の原発としては初めての適合という点にある。

 

 

沸騰型は安全性の確保が加圧水型より難しい

 

 念のため、原子力発電について復習をしておこう。原子力発電には大きく2種類ある。1つは原子炉の中で蒸気を発生させ、それを直接タービンに送る「沸騰水型原子炉(BWR)」、もう1つは原子炉内で発生した高温高圧水を蒸気発生器に送り、そこで別の系統を流れている水を蒸気に変えてタービンに送ることで発電機を回す「加圧水型原子炉(PWR)」である。

 

 

 沸騰型は構造が単純ということもあり、日本における商用炉で最も多いく、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、中国電力のすべての原発は沸騰型となっている。デメリットもある。原子炉炉心に接触した水蒸気をそのまま使うため、放射性物質に汚染され、PWRよりも廃炉コストが高くなってしまう。3.11の際、津波によって事故を起こしてしまった福島第一原発は、沸騰型である。

 

 

 一方、冷却系統が一次、二次と分かれている加圧水型は沸騰型に比べて、安全性が高いとされている。放射性物質を一次冷却系に閉じ込めることができるため、タービンが放射性物質に汚染されることがないからである。そのため、保守もしやすい。単純化していえば、炉内で沸騰させた水を直接発電に使う沸騰型より、炉内で沸騰させた水を熱交換によって、放射能に汚染されていない、別のきれいな水を再沸騰させて発電に使う加圧水型の方が、構造上の違いから安全性が高いということである。

 

東電の適格性まで審査した原子力規制委員会

 

 これまで3.11以降、再稼働してきた原発はすべて加圧水型だったのに対して、今回の柏崎刈羽原発6号機、7号機は福島第一原発と同じ沸騰型であることから、今回の適合の意味がどれだけ重いか、分かって頂けると思う。しかも東京電力管内である。原子力規制委員会は東京電力が福島第一原発の事故を起こした事業者であることを勘案し、原発を稼働・運転する適格性があるのかまで確認したという意味では、これまでに再稼働した他の原発の審査にはなかった異例の対応をしたといえる。

 

 

 あまり報道されていないが、原子力規制委員会が「適合」と判断すれば、実は事業者である東京電力は柏崎刈羽原発の再稼働が可能になる。住民同意が必要であるとか、自治体の避難計画整備が必要であるとか、様々報道されているが、法的には担保されていない。事実、これまでに再稼働した原発を抱える自治体の首長はその事実を認めている。例えば、反原発で当選したはずの鹿児島県知事、三反園氏は2016年12月の県議会において、九州電力川内電子力発電所1号機の再稼働にあたって「県知事に原発を動かすかどうかの決定権限はない」と答弁している。

 

 

 法的に位置付けられていない同意をどのような形で確認しているのかというと、議会における陳情審査という形を取っている。川内原発の場合、2014年10月に薩摩川内市議会は臨時議会を開催し、市長、議会が原発再稼働に容認しており、これは全国的にもニュースになった。「原発を再稼働してほしい」という陳情を議会へ提出し、これを議会が審査し受理する、という形を取っている。住民の避難計画についても同様で、審査する仕組みが整っていない。

 

 

 なぜ、法的には努力義務ですらない住民同意が求められているかといえば、国会の予算委員会において内閣総理大臣が「原発再稼働にあたって、住民同意は必要」という考えを示したからだ。国会の場における内閣総理大臣の発言は重いが、一方で、法的には努力義務ですらないため、同意を得なければいけない議会についても定めはない。これまで再稼働の際に、原発を抱える当該基礎自治体と、その上の広域自治体で議会が同意している。川内原発の場合は、薩摩川内市議会と鹿児島県議会、伊方原発の場合は、伊方町議会と愛媛県議会といった具合である。くどいが、これも別に法律で定められているわけではない。隣接市町村の同意は要るのか、要らないのかといった議論が出るのもそのためである。ここに危うさが残っている。

 

原発推進、原発反対の前にやるべきこと

 

 目前に衆議院選挙が迫っている。各党、原発に対する考え方に違いがある。その違いを論じる前に、本来、最低限やっておくべきことがある。それは今述べた再稼働に当たっての原子力委員会の審査の中に、避難計画を入れること、加えて地元の同意を得る範囲を明確にし、同意を得たことを審査の項目の中に入れること、これは原発に対するスタンスがどうであれ、立法府である国会で議論できることである。実際アメリカでは10CFRという規制基準の中で、自治体による避難計画の整備を審査対象として入れ込んでおり、避難計画の整備が不十分と判断され、廃炉になった原発もあるくらいだ。この辺の議論が国会では十分に煮詰まらなかったのは残念だ。

 

 

 特に原発をベースロード電源として位置付けるという立場を取っている自民党こそ、地元同意の範囲やプロセス、住民避難計画の策定などを新規制基準に盛り込むなどして、原発の再稼働の可否を審査する際の対象にするための法整備をすべきではないか。3.11の福島第一原発を振り返っても、未だに困難な状況に置かれていることからも、ひとたび、事故が発生したときの影響はあまりに甚大である。だからこそ、原発を維持あるいは推進する立場を取る政党は、再稼働における審査の中に、しっかりと住民の安全を担保する仕組みをつくると主張すべきだろう。

 

 

 原発ゼロの立場を取る野党が超党派で手を組んで、その流れをつくってもいい。「自分たちは原発の再稼働にそもそも反対だから」という理由で、この議論から避けてはいけない。政権交代が起きるまでは、今の方針が維持されるわけだ。地元同意や避難計画の巧拙は、再稼働にあたっての法的要件ではなく、審査委員会の適合判定で原発は再稼働できる。政治は現実であるから、野党が政権を取らない限り、原発はゼロにはできないし、それまでの間は原発の再稼働に住民同意は法的に位置付けられないままなのである。

 

空気に頼る難しさと危うさ

 

 もちろん、福島第一原発であれだけの事故が起きてしまったわけであるから、原子力規制委員会が適合をもって、原発再稼働とはいかないのはこれまでの通りである。法的に位置付けられていない気持ち悪さは残るが、地元合意を取り付ける工夫はしなければならない。これは言い換えれば、世間の空気に頼っているに過ぎない。こと、この件は世間の空気に頼る運用ではいけない。

 

 

 今回の原子力規制委員会による柏崎刈羽原発の新規制基準適合の判断によって、今後は地元自体へのステージが移る。前例にならえば、まずは原発が立地する柏崎市議会だ。ここで陳情が審理される。その陳情の審査によっては、結果を受けて、次は新潟県議会である。新潟県も反原発を掲げて当選した米山知事がいるところだ。米山氏はもう十分、知事には再稼働を止める力はないことは理解しているはずである。だからこそ、彼が今後、どういう形で再稼働にあたっての安全性確保を県民、市民に不安を与えることなく説明できるか、そこが問われる局面が出てくるだろう。

 

 

 繰り返すが、現在、住民同意が法的に位置付けられていないため、現場の県知事、市長には大きな負担を与えている。原発ゼロの社会を目指すにしても、あるいは原発を認める社会を目指すにしても、まずは再稼働の審査要件の中に、住民同意のプロセスと避難計画も入れ込むことがなにより重要ではないだろうか。

 

 また、「そもそも我が国に原子力発電所は必要か?」といった根本的な問いを立てることが求められる。今回の2017年総選挙は原子力発電所の「存続」か「廃止」かが争点の一つとなっているため、ぜひ大いに戦ってほしい。