霞が関から見た永田町

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地方創生で必要なのは補助金ではなく人 | 脱しがらみへの挑戦

 

プレミアム商品券に、ゆるキャラ、B級グルメ。地方に目を向ければ、どこも同じような取り組みをしている。ゆるキャラのデザインから、B級グルメを使ったイベント開催、週末ともなれば、全国各地で同じような風景をいくつも見かける。これらの多くは、税金で賄われている。しかし、悲しいかな、これらのイベントは一向に地域を活性化してない、単に税金を垂れ流すイベントに成り下がっている。

 

 

2016年3月に内閣府地方創生推進室が発表した「地方創生加速化交付金の交付対象事業の決定」資料を見てみよう。予算総額は906億円、内訳はしごと創生へ551億円、地方への人の流れに181億円、働き方改革に35億円、まちづくりに138億円となっている。これからの予算の交付対象は都道府県と市町村、つまり地方都市である。

 

 

交付事業をつぶさに見ていくと、さらに驚くことばかりだ。例えば、海外企業との商談機会の創出事業のために1億7000万円の予算がついている。商談の機会をつくるだけの事業に、である。どう考えてもKPIの設定が間違っているとしか思えない。まだある。3200万円の予算で外国人観光客数を20人、日本人観光客数を100人増やすことを目的とした事業や、コミュニティカフェの整備などに3800万円の予算をつけ、年間利用者120人を見込む事業など、正直、目を覆いたくなるものがずらっと並んでいる。

 

 

KPIといいながら初期投資にばかり目がいき、事業がスタートしたあとのランニングコストについては、どう見ても検討されたとは思えない事業がいくつも存在する。どれもこれも地方創生を目的に創設された交付金である。

 

 

税金で支えるものを間違っている

地方創生交付金とは直接関係ないが、最近、次のようなニュースが流れ、首都圏を中心にビジネスマンの多くが行政の発想の貧困さに驚いたことがあった。千葉県松戸市、松戸駅前にある百官店「伊勢丹松戸店」の閉店を巡るドタバタだ。松戸市は2017年の9月議会、問題となったのは「議案第12号 平成29年度松戸市一般会計補正予算」。ここに盛り込まれていたのは、撤退がささやかれている伊勢丹に対して、松戸市が10年間で約21億円の家賃を肩代わりする、というものだった。伊勢丹の4階フロアの約6割を松戸市が借り受け、市の行政事務を執行する、いくつかの機能を移転する計画だった。伊勢丹に残ってほしいと松戸市と、少しでも経費を削減したい伊勢丹の思惑が一致したのであろう、この補正予算は税金による企業の救済措置のように見えたこともあって、結果的には議会で否決された。

 

 

このニュースは非常に示唆に富んでいる。同じようなことが地方創生でも起きている。人口減少社会に突入した今、行政が企業のキャッシュフローを支えることなど、土台無理である。地方創生に必要なのは、お金ではなく、お金を継続的に生み出す仕組みだ。その点がまったく理解されておらず、行政の補助金に頼る企業、地域、補助金を配っていれば仕事をしている気になってしまう行政という悪しき循環が出来上がってしまっている。

 

 

補助金をもらって目の前のイベント、目の前の傷をちょっと癒して「創生」した気になってしまう。安倍政権になって地方創生がうたわれ、多額の税金が地方に投入されながら、一向に地域が活性化しないのは、そのほとんどの事業が利益を出す仕組みを持っていないからなのだ。だから補助金がなくなった瞬間に、どの事業も息切れしてしまって次に続かなくなり、地域にお金が循環しないのである。地方が活性しないわけである。

 

 

岩手県紫波町のオガールに見る地方創生の胎動

では、どうしたらいいのか。その答えを見つけつつある地域や人が現れているので紹介しよう。トップバッターは岩手県紫波町にある複合施設「オガール」である。紫波町は盛岡市のベッドタウンとはいえ、人口はわずかに3万3800人。どこにでもある地方都市だ。そんな紫波町の駅前に10年以上、塩漬けになっていた町有地があった。なにせ、人口3万3800人の町である。補助金が付いた再開発をやっても、ランニングで赤字体質になるのは目に見えていたため、関心を持つ企業さえ現れなかった。この町有地は長年、冬には除雪の捨て場として利用するのみだった。

 

 

そんな誰もが諦めていた場所に、2012年、紫波町図書館を中核施設としたカフェやマルシェ、子育て支援拠点などの複合施設「オガールプラザ」がオープンした。これだけ聞くと、「なんだ、そんな場所は地方にいくらでもある」と言う人も出てくるだろう。このプロジェクトの特筆すべきところは補助金が入っていない点になる。資金調達も含めて、すべての民間ベース。税金がふんだんに投入された他都市の同様に複合施設は閑古鳥が鳴いているのに対して、このオガールプラザは補助金を入れていないにも関わらず、いつも人で賑わっている。オープン当初から入居率は100%、年間来館者数は80万人と、信じられない数字を叩き出している。

 

 

2014年にはオガールベースという新しい拠点も完成した。ここはホテルとバレーボール専用体育館を併設した施設だ。この体育館は秀逸だ。日本で唯一のバレーボール専用体育館なのである。バレーボールの国際基準に適合した特殊設計を施したコートの仕様になっており、天井のそこかしかにセコムのカメラを設置することで練習中でもプレイをリアルタイムで画像チェックできるようになっている。日本で唯一の専用コートということもあって、ナショナルチームやジュニアチーム、あるいはバレーボールの強豪校などからの予約が殺到し、その関係でホテルもほぼ満室稼働という状況だ。

 

 

 

補助金が地方創生を阻んでいる現実を見据えるべき

オガールの経営が、他の公共施設と比べてどれだけ異質か、それはお金の流れを見れば一目瞭然である。岩手県に「つなぎスポーツ研修センター」というよく似た公共施設があるのでちょっと比較してみたい。つなぎスポーツ研修センターの場合、土地賃借料は岩手県から無償貸与。建物も岩手県が建設しているので無償貸与。将来発生する建物回収原資も税金だ。一方、オガールの場合、300万円の土地賃借料を紫波町へ支払っている。建物の建設費も将来の回収原資も民間資本で一切、税金は投入されていない。かたや税金で整備、かたや民間資本。にも関わらず、施設の利用料金はほとんど変わらない、むしろ、中学生、高校生などの利用料金はオガールの方が安いくらいだ。

 

 

補助金行政が地方創生を阻んでいる、この現実を認識し、動き始めている人たちはオガールだけではない。むしろ、政治や行政の現場にいる人たちが今、起こりつつある社会の変化に鈍感で、流れから取り残されていると言ってもいいほどだ。今回の総選挙でも地方創生は一つの論点だろう。補助金に頼らない、新しい地方活性化策を打ち出せるかどうか。そこが政党に問われる政策立案能力だ。

 

 

最後に熱海を紹介したい。最盛期といっても、それはもう1969年のことだが、530万人の宿泊客がいた熱海は観光産業で成り立っていた街だ。その熱海の2011年の宿泊客は246万人。街を歩いても、まったく人を見かけない、死んだ街のような熱海。その熱海が今、外国人環境客を含めて、多くの観光客が再び、訪れる街に再生しつつある。熱海の変貌は、東京から熱海へUターンした一人の人物によって生まれている。彼は地方創生の鍵はお金ではないと明言する。

 

 

熱海の再生をドライブする一つのきっかけとなったのが、日本の凄腕のアーバンプランナーたちが講師を務める「リノベーションスクール」が熱海で開催されたことだった。リノベーションスクールは街の空き家、空き店舗などを題材に、どうやって再生するのか、具体的な事業計画をスクール受講生がプランナーと一緒に練り上げて、資金の出し手である銀行と物件のオーナーに提案する、今、注目を集めているスクール。熱海で第1回目のスクールが開催されたのが2014年のことだった。スクールの最終プレゼンの場には、熱海市の副市長の姿もあった。この人物は国土交通省から熱海市に出向していたキャリア官僚。その彼が最終プレゼンを聞いて、涙を流したという。

 

 

真の地方創生の胎動は起きている。省庁の中にも、それに気づいている官僚はわずかだが、存在する。しかし、組織のしがらみもある。新しいことへチャレンジしても評価する人もいない。これが今の補助金漬けの地方創生を変えられない元凶となっている。変えられるのは政治の力だ。それができるのは、どの政党なのか、今回の選挙で注目したい。