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国会閉会後の緻密で、狡猾な安倍総理の記者会見

 国会が閉会した次の日、安倍総理の記者会見が開かれた。

 

 その冒頭発言において、安倍総理は、政策とは関係のない議論ばかりに多くの審議時間が割かれてしまったことについて「国民の皆様に大変申し訳なく感じております」と反省の弁を述べ、「何か指摘があればその都度、真摯に説明責任を果たしていく」と明言した。初めに反省の弁を総理が述べれば、注目は当然そこに集まる。実際に、このあたりの発言がメディアでも取り上げられ、民進党蓮舫代表もコメントを寄せている。まずは反省の姿勢を印象付けるという点で、この冒頭発言は大成功と言えるだろう。以下、今国会で成立した法律案について言及していく流れとなるが、この流れも含めて、安倍総理の冒頭発言を文章で確認すると、それが周到に練られたものであることが見えてくる。

 

 そもそも、真摯に説明責任を果たしていくという言葉は、加計学園の件に関して文部科学省が追加調査の結果として文書を公開したことを受けて、二転三転した政府の対応について述べた後に配置されている。説明責任を果たしていないという意味では、加計学園の前には森友学園の問題があった。また、文書の存否をめぐっては、南スーダンPKOの日誌の件が今国会でも取り上げられたところだが、それらの点については言及されていない。国民の印象に一番強く残っているだろう加計学園の問題にのみ焦点を絞ってしまい、それについては率直に謝り、その他に説明責任を十分には果たしていない可能性のある点については触れず、ダメージの最小化を図っているのである。

 

 成立した法案についての説明も、まずは国民的な関心が集まっているであろうテロ等準備罪処罰法から始めている。この法律について説明する際に、イギリスやフランスなどでのテロ事件を言及し、さらに東京オリンピックパラリンピックを控えていることから、テロ対策が必要であるとの振りを入れてから、本題に入るという周到さである。

 

テロ等準備罪処罰法と安倍総理も呼称しているが、正式には「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」であり、そこに「テロ」の文字は含まれていない。あくまでも国際組織犯罪防止条約批准のために国内法を整備する必要があるということから、この法律案は提案されており、金田法務大臣衆議院の委員会審議時にそう答弁している。にもかかわらず、安倍総理は、「テロを未然に防止するため、国際組織犯罪防止条約を締結し、国際社会と連携を強めていく。今回成立したテロ等準備罪処罰法は、そのために必要なものであります。」としている。テロ対策のために国際連携が必要であることはそのとおりで、国際組織犯罪防止条約を締結することで国際社会と連携を強めることになるのもそのとおり。しかし、国際組織犯罪防止条約は組織犯罪に関する条約であり、テロ対策を本旨とするものではない。国際組織犯罪防止条約批准のためということであれば、野党などが懸念を示した共謀罪に関する部分の法整備が焦点となるのである。しかし、共謀罪という言葉が出るのを嫌って、テロ対策を前面に出し、テロ等準備罪処罰法と呼称した上で、テロ防止と国際組織犯罪防止条約、そして国際社会の連携を並べてしまうことにより、上手く視点をずらしているのである。これこそ安倍総理が嫌う印象操作そのものではないかと思わなくもないが、そう思わせない流暢な文章展開には舌を巻く。

 

このテロ等準備罪処罰法への言及の後は、天皇の退位等に関する皇室典範特例法など与野党を超えて合意が成立した法案を成果として紹介していく。ここには批判が集まりにくい。そして、構造改革の成果を紹介した上で、加計学園の名前は出さずに、獣医学部の新設も岩盤規制改革の成果として紹介していくのである。さらに、獣医学部の新設の件の後には、「あらゆる人にチャンスをつくること」や「人づくり革命」といった、これも誰もが反対しないような事柄を説示していく。与野党を超えて合意がなされた事案というのは反対の少ない事案であり、そういうものを紹介した上で、政権として改革の成果も見せ、その延長線上に問題となっている事案すらも位置付けてしまう。そして、その後にも反対の少ない事柄に言及する。この流れでは、全てのことが問題なく進んでいくように見えてくる。この一連の流れも不自然に見えず、大変巧みである。

 

より詳細に見ると、一文一文に細心の注意が払われており、事務方による繊細な文章作成の跡が見て取れる。国会閉会に際して内閣の支持率低下が報じられた中で、渾身の冒頭発言が準備されたということだろう。

 

 

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